2007年 6月 6日 (水) 

       

■  〈口ずさむとき〉23 伊藤幸子 馬が尾を振る

 しゆわしゆわと馬が尾を振る馬として在る寂しさに耐ふる如くに
  杜沢光一郎

 昭和40年代、発表と同時に評判になり、たちまち人口に膾炙(かいしゃ)した歌。色紙にもよく書かれ、ご本人もお気に入りの一首。私はこの色紙を25年前に、所属する短歌会の全国大会で頂戴(ちょうだい)した。氏は浦和市の天台宗のお住職でずっと有髪の方である。

  先日、5月20日、松本市の美ケ原高原で大会が開催され、参加した。私は入会は早かったが、全国規模の大会行事などに泊まりがけで出かけられるようになったのは子育てが一段落したころからで、この松本が初めてだった。

  なんと、今回懇親会のとき、25年前の大会風景がスライドで映し出され、思いがけず30代の自分と対面しておかしかった。何か賑(にぎ)やかにおしゃべりをしていて、宮先生はじめ、慕わしい方々のお顔が見える。10分足らずの映写が終わり、明るくなった宴(うたげ)の席で、すでに世を去られた幾多の方々の画像が思われた。

  いつも大会日程フィナーレには、白秋歌曲メドレーでおひらきになるのが恒例で、わけても杜沢さんの「砂山」は絶品だった。氏の読経にきたえられたお声は深く、寂びさびと心を揺らされたものだった。

  今回参加者平均年齢が69・7歳と発表され、90歳以上の方3人が顕彰された。宮英子夫人もそのおひとりである。「これから25年後」と談笑していると、「伊藤さん、あなたはそのときも、元気で参加できるわね」と笑われた。ふっと指を数えてみると、英子先生の90歳にはまだ少し間があるかもしれない。

  でも、齢(よわい)ばかり加えても、「四十にて極めずば能は下るべしと世阿弥のいひし四十近づく」と詠まれたのも杜沢さん。第一歌集「黙唱」に、芸の極みをこめられて眩(まぶ)しかった。

  氏は今回は身辺お忙しくてご欠席、生者も死者も忙しい。今大会、岩手から来たと言ったら「どんど晴れ」効果に沸いた。「しゅわしゅわと馬が尾を振る」馬の祭りももうすぐだ。


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