「薄明の青木」
暮れやらぬ 黄水晶(シトリン)の
そらに
青みわびて 木は立てり
あめ、まっすぐに降り。
〔現代語訳〕完全には暮れていない黄水晶(シトリン)の空に、青くなることに困惑して、木は立っています。(その木に)雨が真っすぐに降り……。
〔評釈〕「大正七年五月より」〔「歌稿〔B〕」〕五十首中の冒頭歌の「646歌」で「薄明の青木」六首の一。「歌稿〔A〕」では、ここからシゲ筆写となる。手慣れたトシの筆跡に比べると、やや細身の、几帳面(きちょうめん)さが伺われる筆跡。「黄水晶」は、トパーズに似る鉱物。賢治は夕焼けが始まった空のイメージとして多用する〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕。「やらぬ」は「遣る+ず(否定の助動詞)」で、「完全には〜し切っていない」を示す語。「青みわびて」の「わび」は、「動詞の連用形に付いた」場合のもので、「〜に困惑する」などの意。「現代語訳」では、その語感の生硬さをそのまま残すことにした。第二・三句の字余り、第四・五句の句跨(また)がりが、短歌定型の枠組を逸脱しそうな勢いを誘う。
(岩手大学特任教授) |