2007年 6月 10日 (日) 

       

■  〈賢治の歌〉777 望月善次 雲の原のこなたに

 雲の原の
  こなたに青木に立ちたれば
  くれの羽蟲ら雨を避けたり。
 
  〔現代語訳〕雲の原のこちら側にアオキは立っているので、暮れの羽虫らは、(このアオキに)雨を避けているのです。

  〔評釈〕「大正七年五月より」〔「歌稿〔B〕」〕五十首中の三首目の「648歌」で「薄明の青木」六首の三首目でもある。「羽蟲」は、「歌稿〔A〕」では「羽虫」(ちなみに「虫」はマムシの象形で、「蟲」は、その「虫」を三つ合わせて、多くの「蛆虫」から「色々な動物」を示す、それぞれ別の意味の文字。)。また結句は、「歌稿〔A〕」では、「雨やどりせり」であったが、「歌稿〔B〕」においても、この形から出発していた。「羽虫」は、「ハジラミ」の意味もあるが、ここでは「翅のある小昆虫の総称」〔〔『広辞苑』〕だろう。「雲の原」を遠景にして、こちら側に「青木」を配し、さらに「羽蟲」へと視線を集約している話者の視線に注目される。また「羽蟲の雨やどり」も賢治らしい。
  (岩手大学特任教授)

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