〔廃坑のうつろをいたみ立ちわぶる
わが身の露を風はほしつゝ〕
〔現代語訳〕廃坑となった何もない所を悲しく思って、立ちかねている私の身体の露を、風は乾かしながら吹いているのです。
〔評釈〕「大正七年五月」〔「歌稿〔A〕」〕六十五首中の二十二首目の「667歌」で「鶯澤」と題された一首。「鶯澤」は、豊沢上流の鉛温泉の近くの高狸山にあった「鶯澤硫黄鉱山」を指す。この年閉山となったという〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕。「うつろ」は、「中に何も満たすものがなく、からであること。また、そういう所。」で、空間的なものではなく、精神的な「心がむなしいさま」をも示すことになる〔『広辞苑』〕。抽出歌における「うつろ」も、そうした空間的・精神的要素が重なっているものだと見た。「廃坑になって間もない鉱山を悲しく思って立ちかねている話者の露を風が乾かしている」という設定は、表現的に、特に際立ったものではないが、静かな中に力量が示されている。
(岩手大学特任教授) |