折壁
〔たばこばた風ふけばくらしたばこば
た光の針がそゝげばかなし〕
〔現代語訳〕タバコの畑は、風が吹くと暗いのです。また、このタバコの畑は、光の針が注げば悲しいのです。
〔評釈〕「大正七年五月」〔「歌稿〔A〕」〕六十五首中の二十四首目の「669歌」で「折壁」と題された十一首中の冒頭歌でもある。当初「秋の風うちくらみふく草山を白きひかりのすぐる朝かな」とされていたものを、後年に抹消して抽出歌の形に書き直したもの。第二句には、当初の形を引いた「くらみ」があり、結句には「かなしみ」の形もあった。「折壁」は、現花巻市大迫だが、当時は、大迫とは別。賢治の実生活に即すと、同年九月二十二日から二十六日までが、大迫地域の調査〔書簡85〜87等参照〕。「たばこばた」の暗さと悲しさの原因を、「風」と「光」とに集約しているのは、もちろん話者の感慨。「たばこばた〜かなし」や「ひかりVS針」の結合比喩に賢治らしさの基本的要素が、また「たばこばた」の繰り返しの中に賢治短歌の実力の一端が垣間見える一首でもある。
(岩手大学特任教授) |