2007年 7月 7日 (土) 

       

■ 〈賢治の歌〉803 望月善次 息吸えば白きここちし

 息吸へば
  白きここちし
  くもりぞら
  よぼよぼ這(は)へるなまこ雲あり。
 
  〔現代語訳〕息を吸ったので、白い気持ちがしました。(目を空に転ずると)曇り空には、よぼよぼと這っているなまこ雲がありました。

  〔評釈〕「大正七年五月より」〔「歌稿〔B〕」〕五十首中の二十四首目の「672歌」で、「歌稿〔A〕」によれば、「折壁」関連の作だと言える。また、その「歌稿〔A〕」においては、第二句の「ここち」は、「こゝち」であった。「白きここち」は、もちろん「結合比喩(ゆ)」であるが、「白い」という色彩を表す形容詞をして、通常は、色彩とは関係のない「ここち」を修飾させるのは、賢治の典型的な「ズラシ的用法」の一つ。「なまこ雲」は、「低く垂れこめて尾根にかかる雲の形容。なまこ(海鼠)の形に似るところから言う。」と説明され、それは「賢治の海鼠は比喩も含めてよく空にいる」の典型でもあるという〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕。そのなまこ雲が「よぼよぼ這う」のが少し楽しい。

  (岩手大学特任教授)

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