2007年 8月 5日 (日) 

       

■ 〈胡堂の父からの手紙〉123 八重嶋勲 30円送付せよとは、実に驚くほかない

 ■178巻紙 明治38年6月21日付

宛 東京市本郷区第一高等学校寄宿舎中
   寮二番
発 岩手県紫波郡彦部村

前略今回之試験ハ最重大ノコトナラント推察致候、当方無事ナリ安心相成度候、扨テ今回金三拾円送付セヨトノ報導ニハ実ニ一驚ノ外無之豫定ハ帰郷費拾円内外ナラント思ヘ(ヒ)ノ外ノ大金第一金束(策)ニ途無之如何センヤ心痛罷在候、総テノ買物土産等ハ勿論無用ナリ、当方ノ苦痛実云方ナシ、豫察アツテ拾五六圓ニテ間(ニ合)セル途ナキヤ、他ノ冨豊ナラサル学生ノ在京者ヲ聞クモ如此大金ヲ要スルモノ未曽テ不聞、財政ノ為メ到底学業満足スル事至難ナルベシト思考候、併シ目下試験ニ際シ如斯苦談心外之至リニ候得共如何セン金束(策)ニ途ナシ、賣物一ツモナシ、加之一般金融不通ニ困難原因セリ、兎ニ角将来ハ帰宅ノ節相談スル事ト致シ、出来得ル限リ請求高ヲ全フセントスルモ不能時ハ廿五日迄ニ苦探シテ金弐拾円丈斗(計)リモ送金スルノ見込ニ候、其共三十円取纒メ相成候得者全額送付スル事ト可致候、何ノ道三十円ハ大金ナリ、当月分ノ舎食費モ滞リナカルベシ、如何之次第ナルヤ、実際帰郷スル必要丈至急通知スベシ、余ハ後便ト申残ス、早々
   六月廿一日      野村長四郎
    長一殿
 
  【解説】「前略、今回の試験は最重大のことであろうと推察している。当方無事なので安心するように。さて、今回30円送付せよとのこと、実に驚く外はない。予定は帰郷費10円内外であろうと思っていたが、ことのほかの大金の要求。第一、金策の道がなく、どうしたらよいのか心痛している。すべての買い物、土産などはもちろん無用である。当方の苦痛実に言いようがない。

  予察では15、6円と思っていた。その金額で間に合わせることはできないか。他の冨豊でない学生の在京者を聞いても、長一のように大金を使っている者はいまだかつて聞いたことがない。家政困難のため到底学業を満足させることは至難であると思考される。しかし、目下試験に際して、このような苦談は心外であるだろうが、如何とも金策に道がない。売る物は一つもない。加えて一般金融不通が困難の原因である。

  とにかく将来については帰宅の節相談する事とし、出来る限り要求の額を工面しようと思うが、出来ないときは25日までに苦探して20円だけでも送金しようと思っている。出来るだけ努力して30円取りまとめできれば全額送付することにしよう。どの道30円は大金である。当月分の舎食費も滞っていないはずであり、どういうわけであるか。実際帰郷するに必要なだけ至急知らせよ。余は後便に申し残す、早々」という内容。

  今回、長一からの30円という大金の学費の要求に父長四郎は、すっかり頭を抱え心痛している。この手紙は、ほかの事は一切書かず、学費のことのみに終始しているあたり、金策に本当に苦しんでいる様子が分かる。

(岩手県歌人クラブ副会長兼事務局長)

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