2007年 8月 8日 (水) 

       

■  〈口ずさむとき〉32 伊藤幸子 盂蘭盆

 盂蘭盆の客人厚くもてなさむみ明りと香と冷えし井水に
  古屋祥子

 「盆と正月」といえば多忙の代名詞。マスコミもまた帰省ラッシュの風景をくり返し映し出し、忙しさをあおる。しかしよく考えるとお盆に訪れる客人とはあの世の人たちこそ主役。そのために盆道を整え、盆火を焚(た)き「香草灯燭(とうしょく)」を供える習わしであった。「なのか日」にはうちの方ではことしも早朝からお墓の清掃を行った。このころからお盆十三日を頂点として民族大移動が始まる。民宿化する家庭の主婦は大変だ。彼(か)の客人は何も言わないが新幹線でやってくる者たちへのもてなしは毎食精進料理というわけにもいかない。

  この作者は「生れ処を出づるなく老い朽ちゆかむ古き母系の家守われは」という群馬県の旧家の家刀自(とじ)で、二十代から作歌活動を始め喜寿の今、すでに歌集も三冊出版された。「解放を免れし農地一町歩専業に足らず兼業に余る」実情から「家妻をそして農婦を演じをりわれは翔びたき夢を胸処に」というような願いも見えた。

  子育ても一段落したころからは海外にも出かけられ、好きな古代史に没頭されて発掘調査なども手がけられる。「木を運び石を担へる民のこと思ふに痛し石の沈黙」「土器破片大切に持つ古代より現在(いま)へもたらす伝言聞くと」このような時間こそ、俗世間の煩雑さを忘れさせ、古代の人々の伝言が聞こえてくる。作者のひたむきな学究創作の姿に打たれたものだ。

  「生れぐに上つ毛のくに風のくに風と暮らして風を手懐(てな)づく」上州富士見村にも「回転寿司できて渋滞続きをりわが村はいま都市化の途中」というような日常になった。長く生きてくれば「ひとりづつ呼ばれ世を去る友多し年齢不問順序も不同」こんな場面も多くなる、「軽やかに漕ぐ舟のごと行きたきを老いてかなはぬ希(のぞ)みとはする」と、老境の覚悟を示されて第三歌集「軽舟」のタイトルとされた。実年齢より十年は若い閨秀(けいしゅう)の作品群であ
る。


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