2007年 8月 9日 (木) 

       

■  〈賢治の歌〉837 望月善次 みちのく夜はたちまちに

 〔みちのく夜はたちまちに燃えいで
  て赤き怒りの国と変りぬ〕
 
  〔現代語訳〕陸奥の夜は、たちまちに燃え出して、赤い怒りの国と変わったのです。

  〔評釈〕「大正七年五月」〔「歌稿〔A〕」〕六十五首中の五十七首目の「702歌」。当初、「天窓二首」とされていたが「天窓」は削除された。「天窓」がなければ、祭りの火などの実際に火が燃えている光景を思い浮かべることも可能であるが、抹消されたとはいえ、「天窓」という題が付されていたことを考えると、「天窓」から覗(のぞ)いた空の様子が作品形成の契機となっている可能性が高い(少し大仰に言えば、「題名」や詞=ことば=書きが与える文脈決定性の問題ともなろう)。その契機的事実は別として、一首の核心は、そうした見た光景を「赤き怒りの国と変りぬ」とした点にあろう。比喩(ゆ)的に言えば、「赤き怒りの国」は結合比喩なのだが、「天窓」からの光景にもそれを見るところが、やはり賢治的。

  (岩手大学特任教授)

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