2007年 8月 10日 (金) 

       

■  〈賢治の歌〉838 望月善次 錫病の空をカラスが

 錫病の
  そらをからすが
  二羽飛びて
  レースの百合も
  さびしく暮れたり。
 
  〔現代語訳〕錫(すず)ペストのような(灰色の)空をカラスが二羽飛んでいます。(この光景に見合うように)レースの百合も寂しく暮れたのです。

  〔評釈〕「大正七年五月より」〔「歌稿〔B〕」〕五十首中の四十首目の「704歌」。「歌稿〔A〕」では、第三句の「飛びて」の表記が「とびて」と開いていた。また、結句が脇に書かれたいたから、一応は二行の形でもある。「錫病」は、「錫ペスト」のこと。αスズ、βスズの二変態があり、転移点は18度。普通白色であるが、βスズを零下30度以下に長時間保つとαスズに転じ、灰色になり、表面に突起を生じ、ついには粉状になって壊れるという。19世紀ロシアの博物館で発見されたこの現象は、「錫ペスト」と呼ばれたという〔『日本大百科全書』〕。それはそれとして、短歌的には、〈遠景〉の空の様子と〈近景〉の「レース」とを「飛びて」と結ぶ「て」が作品を支えるのである。

(岩手大学特任教授)

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