2007年 8月 11日 (土) 

       

■ 〈賢治の歌〉839 望月善次 編み物のユリも寂しく

 編物の
  百合もさびしく暮れ行きて
  灰色錫のそら飛ぶからす。
 
  〔現代語訳〕(目前の)編物の百合も寂しく暮れ行って、(目を上に転ずると)錫(スズ)ペストのような灰色の空を飛ぶカラスがいるのです。

  〔評釈〕「大正七年五月より」〔「歌稿〔B〕」〕五十首中の四十一首目の「705歌」。「歌稿〔A〕」では、結句の表記が「そらとぶ」であった(最初は、「とび」と書き、それを書き直してもいる)。βスズを零下30度以下に長時間保つとαスズに転じ、灰色になる経緯については、昨日の「704歌」でも言及したから、これ以上の言及は差し控えたい。「編物の百合」VS「レースの百合」や「灰色錫」VS「錫病」などの用語の違いはあるものの、作品の内容は、実質的には「704歌」と変わらない。問題は、〈近景〉の「編物の百合」から始めるか、〈遠景〉の「灰色錫の空」から始めるかなのである。「近景↓遠景」が賢治の基本型であるが、今回は、「704歌」の方が「マシ」と見た。
  (岩手大学特任教授)

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