2007年 8月 14日 (火) 

       

■ 〈賢治の歌〉841 望月善次 雲垂れし、この店先を

 雲垂れし
  この店さきを
  相つぎて
  道化まつりの山車は行くなれ
 
  〔現代語訳〕雲が垂れたこの店先きを、次々と道化祭の山車は行くのです。

  〔評釈〕「大正七年五月より」〔「歌稿〔B〕」〕五十首中の四十二首目の「707歌」。「歌稿〔A〕」は、「むねとざしそらくらき日を/相つぎて/道化まつりの山車は行きたり」で、「歌稿〔B〕」もその形から出発している。なお、初句は「雲と」としたが、「と」を削除している。結句は、「行くなれ」と、「こそ」対応の結びでもないのに、已然形で終わっているが、有名な齋藤茂吉の「めん鶏ら砂あび居たれひつそりと剃刀研人は過ぎ行きにけり」〔『赤光』〕の例もある。「むねとざし」から変わった初句の推敲(すいこう)過程を見るまでもなく、「雲垂れし」は、憂鬱(ゆううつ)でたまらない話者の心の象徴。暗い心には、初午に行う「火祭」〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕は、正に「道化祭」でなくてはならない。

  (岩手大学特任教授)

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