■ 〈あのころぼくはバンドマンだった〉最終回 北島貞紀 その先にあるもの
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■ 1985年
新大阪の駅構内にある食堂で、僕たちはレイコを飲んでいた。アイスコーヒーを大阪では冷コというが、いかにも大阪的な言い方だ。ひっきりなしに客の出入りがあるため、店内のクーラーがあまり効かない。発車まで、あと半時間程だった。
「世話になったな、最後まで」
「そんな、言わんといて。悲シなるやんか」。ケン坊がむきになって応えた。
「そやけど、北ヤンおれへんようになったら、どないしたらえぇやろ」
「おいおい、なんや男と女の別れ話のようやで」
「ほんまや」やっと表情がゆるんだ。
昨日のフェアウエルパーティーの余韻が、しこたま飲んだ酒とともに残っていた。今日の出発はケン坊だけに告げた。荷物はすでに郷里に送ってある。
「そろそろ行くわ」僕はボストンバックを手にとって立ち上がった。
食堂を出ると、空気が暑さでよどんでいた。
「今年は、残暑がきついなぁ」
「盛岡はもう涼しいやろか?」
「いや、ようわからん。15年も大阪におるんやから」
「ほんまや」
改札口が見えてきた。僕は、今日ケン坊に伝えたかったことを口にした。
「なぁ、ケン坊、できるならバンドをやめて昼の仕事に戻ってくれ」
「えっ?」
「前は、昼をやめてバンドをやれといっときながら、勝手やと思うやろが」
「ほんまや」
「もうなぁ、十分やったと思う。それになぁ、もうバンドの時代は終わった。いや、僕たちのバンドマンの時代が終わったんや」
「そうかも知れん。けど北ヤンはどうするんや」
「この間話したように、もう少し頑張ってみるつもりや。だけど今まで追っていた夢とは違う夢を描いている」
「うん」
「今までは、上手くなりたい、いい演奏がしたい、あわよくば売れたいが夢やった。けどもうその時代は終わった。今度は、音楽を楽しんで続けたいんや。そのための基礎づくりや。僕はこれからもバンドマンを続けるけど、それは手段や。だからな、ケン坊、いつかくる日のために同じように基礎づくりをやってほしいんや」
「なんやモヤモヤしてるけど、わかったわ。またいつか一緒にやれるんやね」
改札口に着いた。僕たちは固い握手を交わした。
「あぁ、そのために行くんや」
(完) |
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