2007年 8月 16日 (木) 

       

■  〈賢治の歌〉843 望月善次 つつましき春のクルミの枝々に

 つつましき
  春のくるみの枝々に
  黄金のあかごら
  きたりかゝれり
 
  〔現代語訳〕物静かで、遠慮勝ちな春のクルミの枝々に、黄金の赤子とも言うべき花穂が来て掛かっています。

  〔評釈〕「大正七年五月より」〔「歌稿〔B〕」〕五十首中の四十四首目の「709歌」。結句には、「ゆらぎかゝれり。」の形も。なお、「歌稿〔A〕」では、初句は、当初「つつましく」であった。「クルミ」は、賢治好みの樹木の一つ。その訓(よ)みは、別称「呉桃」からくる「呉果(クレミ)」により、「胡桃」の表記は、四世紀に中国へ西方から伝わったことによるもの〔『日本大百科全書』〕。『新宮澤賢治語彙辞典』は、「黄金のあかご」はクルミの花穂を指すという。雄花は尾状花序につき、雌花は枝に頂生するというから、抽出歌は雌花の世界。「つつまし」は、「ツツミ(慎)」により、「あからさまに人に知られたくない」意〔『岩波古語辞典』〕。「きたり」とした話者にも注目されたい。

  (岩手大学特任教授)

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