2007年 9月 2日 (日) 

       

■ 〈賢治の歌〉860 望月善次 銀の夜を虚空のごとく

 銀の夜を
  虚空のごとくながれたる
  北上川の遠きいざり火。
 
  〔現代語訳〕銀色の夜を、何もない空間のように流れている北上川の、その遠い漁火よ。

  〔評釈〕「大正八年八月より」〔「歌稿〔B〕」〕四十五首中の十首目の「719歌」。「いざり火(漁火)」は、「イザル(漁る)」、魚介を捕獲することで、後には、「イサル」と清音化した。(筑摩書房文庫版全集では、「いさり火」と清音化したものを本文としたが、それは行き過ぎであろう。)賢治の「虚空」は、独創的で「仏教的な意味を含みながら、エーテルの充満する自然界の空間、あるいはその原理として用いる。」〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕わけだが、抽出歌においては、そうした深い読みは、一応はなくても読めるだろう。むしろ「わがこの虚空のごときかなしみを見よ。」〔書簡154〕に重ねたい。いずれにしても、悩みながら、「遠きいざり火」を静かに凝視する話者がいる。

(岩手大学特任教授)

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