2007年 9月 2日 (日) 

       

■ 〈胡堂の父からの手紙〉127 八重嶋勲 奇人と呼ばれないようにせよ

 ■182巻紙 明治38年10月17日付

宛 東京市本郷区第一高等学校寄宿舎東
               寮四番室
発 岩手県紫波郡彦部村  

前略申越之金拾七円昨十六日送付セシ筈定メテ落手セシナラン、外套購求等之事情最モ必用(要)ナラント被存候、
前回ニモ申述候通当地凶作実ニ惨情極ル事ニシテ目下県廰以下諸官署ニテ救護束(策)考案中ニ候、就中借財等有之モノハ困難ヲ極メ居候、当月未ニ於テモ前月ノ如ク多額ノ送金申込ル事ニテハ其金策ニ困ル事ト今ヨリ心配致居候、比頃刈入タル収穫ヲ見ルニ五十刈ヨリ稲五十六束ヲ刈取粗悪米六斗三升アルノミ比較スル時ハ本年之収穫米不残学資金ニ充ツルモ尚不足ヲ見ルモノノ如シ、況ヤ公課金百円以上ヲ出シ、家費如何様ニ節倹スルモ一ヶ年百五(十)円乃至弐百円ヲ要ス、借金利子八十円ヲ要スルニ於テ如何相凌クヘキヤ、実ニ頭脳ノ痛ム次第ナリ、如此次第ナルヲ以テ仮令此惨状ヲ直接目撃セサルモ常ニ大節倹ヲ如ヘラレ度候、
ミキハ或ハ離縁ニナルヤモ難斗(計)候、夫妻之間柄ニハ別段変リタル事モ無之様子ナレトモ、母親ノ方豫メ悪評ノアル人丈合性カ悪ルヘ(イ)トカ、方角カ悪ルヘ(イ)トカ、夫レカ為メ夫妻トモ病気不絶ト申居候由、実ニ気ノ毒ニ候得共、馬鹿気ナ事ニハ物ノ云ハレス頼テモ何カ平音ニシテ輝三方ヘ手紙差立ル方可然候、
其他家内等ニハ一向変リタル事無之候、
若年ノ時ノ如ク書籍衣類等紛失セサル様ニ可致候、
不用ニ残セシ物品何ナリ幸便又ハ帰郷ノ際取纒メ持帰ル様可相成候、
学科勿論余事ヲ不顧勉励シ、他人ニ一奇人ト呼ハル様被致度候、
藤原両佐藤ノ如キヘモ常々叮寧ニ交際シ、○校内外ニ於テ東北ノ一奇人トナリ他日効果ノ顕著ミル様今ヨリ心掛奮励被致度候、右用事旁々目下ノ情況一報ス、早々
   十月十七日      野村長四郎
    野村長一殿
 
  【解説】「前略、申し越しの17円、昨16日送付したので定めて落手したことと思う。外套(がいとう)購入等の事情最も必要だろうと思われる。

  前回にも申し述べたように当地は凶作で実に惨情極まり、目下県庁以下諸官署で救護策を考案中である。ことにも借財等のある者は困難を極めている。

  当月未においても前月のように多額の送金を要求されるようでは、その金策に困る事と今より心配している。この頃刈入れた稲の収穫を見るに、五十刈から稲束五十六束(そく)。しかも粗悪米6斗3升あっただけである。比較すれば今年の収穫米を残らず学資金に当てても、なお不足であろう。いわんや公課金100円以上を出し、家計費はどのように節約しても1カ年150円から200円必要。しかも借金の利子に80円を入れなければならない。これをどのように凌(しの)いでゆくべきか、実に頭脳の痛む次第である。

  このような次第であるので、長一には、たとえこの惨状を直接目撃しなくても常に大節倹をしてもらいたいものである。

  ミキは離縁になるかもしれない。夫妻の間柄には別段変わったこともない様子であるが、母親の方は、あらかじめ悪評のある人だけに合性が悪いとか、方角が悪いとか、そのため夫婦とも病気が絶えないのではないかと言っているようである。実に気の毒であるけれども、馬鹿げたことには物を言われない。長一から何とか平音にと輝三方へ手紙を出してもらいたいものである。

  その他家族等には一向変わったことがない。

  若年の時のように書籍や衣類等紛失しないようにせよ。

  不用な物品は何でも幸便または帰郷の際に取りまとめ持ち帰るようにせよ。

  学科はもちろん余事を顧みず勉励し、他人に一奇人と呼ばれないようにせよ。

  藤原、両佐藤のような者にも常々丁寧に交際し、学校内外においても東北の一奇人とならないようにして他日効果の顕著を見るように今より心掛け奮励するようにせよ。右用事旁々目下の情況を一報す、早々」という内容。

  今回も、この秋のかつてない大凶作で、米の大幅な減収(70%)のため家計が成り立たないことを嘆き、しいては学費の仕送りの困難さを訴え、長一に大節約をせよと叫ぶように頼んでいる。

(岩手県歌人クラブ副会長兼事務局長)

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