かすかなる
星の下より
うつろしく
ながれ来て鳴る
北上の水
〔現代語訳〕微かに光星の下から何もない空間のように流れて来て鳴る北上川の水の音よ。
〔評釈〕「大正八年八月より」〔「歌稿〔B〕」〕四十五首中の十一首目の「719・720a歌」。「719歌」の右下に書かれ、当初、初句から第三句までは「うつろしく/遠くながれて/北上の」の形であった。話者が、実際の北上川を目前にしているのか、北上川への思いが集約されて、こうした表現となったのかは定め難い。この定め難さは、抽出歌が「連作」の中に置かれていることによって倍加される。語彙(ごい)の点からすると「うつろしく」が、十分に熟していない表現だという思いを捨て切れなかったが、第四句から結句にかけての「ながれ来て鳴る/北上の水」などを見ると、かっきりと決めていて、賢治の短歌定型駆使の力が、こうしたところにまで達していることにも感慨を新たにした。
(岩手大学特任教授) |