2007年 9月 8日 (土) 

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉65 ナメトコ山(なめとこやま、860メートル)

     
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  童話「なめとこ山の熊(くま)」でおなじみ、賢治の神秘的ゾーンはいったいどこなのか。花巻市西部の豊沢川流域であるらしいが、はっきりしていないということだった。実在する山か、そもそも想像の世界か。なめとこ山は、長いあいだの謎解きランドであった。

  ところが、平成8年の賢治生誕100年を機に地元の愛好家たちにより特定され、国土地理院2万5千分の1の地図に、標高860メートルの峰が「ナメトコ山」と初めて記載された。となれば、ひと目みたい、歩いてみたいと思うのが人情だ。さりとて豊沢川辺りは、賢治のいう『まはりもみんな青黒いなまこや海坊主のやうな山』だから、似たような峰にまどわされ、しゃにむに出かけたところでそうそう見分けられるものでない。

  ありがたいことに近年、県道12号線・豊沢川の幕舘橋(まくだてばし)の中央に、ナメトコ山を眺めるには絶好のポイントが設置された。山の輪郭を白いラインでなぞった透明板があり、遠くの風景がピタッと重なれば、「あれがナメトコヤマだ!」となる。誰にでも簡単にわかる気の利いた工夫が、実にニクイ。登山の起点になる幕舘橋に寄って、先に山容を確かめるのが肝心だ。

  橋のたもとT字路から豊沢川沿いに、県道234号線を4・3キロメートル進むと、左手に広場があり、路(みち)はすぐV字に分かれる。もし2台の車があれば、左の西ノ股沢から登り、右の中ノ股沢方面に下って6時間の縦走が可能である。

  車の底を草でこすりながら西ノ股沢に沿って砂利道を2・4キロメートル行く。標柱「中ノ又林道と北ノ又林道」が立つ手前の草むらが登山口。駐車場はない。

  沢沿いに小路を注意深く進み、やがて沢の左岸斜面に取りつく。ここからは急勾(こう)配なうえ踏み跡が不明瞭(めいりょう)なので慎重によじ登ること。さらに笹原の尾根をぬけると、木々に囲まれ展望のない山頂につく。白いペンキで熊のメッセージが記されていた。−鉄砲もたねで来てけろ−

  帰りは女神山や真昼岳・和賀岳を遠望し、近くに男助山を見ながら中ノ股沢方面へいっきに下る。550メートル点の豊沢金勢大権現神社まで1時間要す。神社の下が金勢峠だ。その後は、車をあらかじめ回しておいた県道234号線へ下る。

  『つめたい霧か雲かを吸ったり吐いたりしている』とは、童話で読むナメトコ山の表情だが、これまで私が歩いた3度とも晴れだった。それなのに山へ一歩踏みこむと、湿り気を帯びたモヤがどこからともなく私に忍び寄った。

  どこか海のようなナメトコ山。動物は魚のよう。皆に来てけろと誘っている。

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