2007年 9月 9日 (日) 

       

■ 〈賢治の歌〉867 望月善次 磨かれし空はわびしく

 みがかれし
  空はわびしく濁るかな
  月の幻師のあかつきちかく。
 
  〔現代語訳〕磨かれた空が、今や、物悲しく濁っています。月の魔術師が、暁近い空にいる頃(ころ)には。

  〔評釈〕「大正八年八月より」〔「歌稿〔B〕」〕四十五首中の十六首目の「724歌」。「夜をこめて行く歌」の二首目。「歌稿〔A〕」では第四句以降は、「三日月幻師あけがたとなり」の形であり、「歌稿〔B〕」も、そこから出発して抽出歌の形となった。達意の点からは、当初の形であろうが、そこに捻(ひね)り加えたいのが、若さであり、表現者の本能でもある。「わびし(侘し)」は、「失意・失望・困惑の情を態度・動作にあらわす」「侘び」に由来し、「失意のさま、気落ちする気持、貧困で苦しい気持」が原義〔『岩波古語辞典』〕。いずれにしてもマイナス的感情。プラスの「みがかれし空」に対するマイナスの具体として「物悲しく」の訳とした。自然現象変化の感情的処理が一首の核心。

(岩手大学特任教授)

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