2007年 9月 13日 (木) 

       

■  〈賢治の歌〉870 望月善次 三日月よ幻師の衣

 三日月よ
  幻師のころも
  ぬぎすてて
  さやかにかかるあかつきのそら。
 
  〔現代語訳〕三日月よ。(あなたは)その魔術師の衣装を脱ぎ捨てて、くっきりと暁の空にいるのですね。

  〔評釈〕「大正八年八月より」〔「歌稿〔B〕」〕四十五首中の十八首目の「726歌」。「夜をこめて行く歌」の最終歌。「歌稿〔A〕」では、結句のみが行変えされていた。また、「ぬぎすてゝ」、「さやかにかゝる」と繰り返し符号を用いていた。「さやか」は、「サエ(冴)と同根。冷たく、くっきりしているさま。」〔『岩波古語辞典』〕。「かかる」には、さまざまな意味があるが、ここは「空にある」の意とした。繰り返すことにもなるが、「夜をこめて行く歌」五首の一連は、擬人化した「三日月」、それも「幻師(魔術師)の三日月」を核として、一夜のさま、特に暁の空を中心として表そうとしたものであった。抽出歌は、その最終歌として、三日月が「幻師の衣を脱ぎ捨てて」完了したのである。

(岩手大学特任教授)

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