〔われを呑めぬれし酒桶われをのめ
ようすくらがりのからの酒桶〕
〔現代語訳〕私を呑(の)みなさい。濡れた酒桶よ、私を呑みなさい。薄暗がりの空の酒桶よ。
〔評釈〕「大正八年八月以降」〔「歌稿〔A〕」〕四十六首中の十八首目の「728歌」。「歌稿〔A〕」で言えば、「北上川第三夜(実際の表記は「同 第三夜」)」に属する作品であるが、「歌稿〔B〕」には採られていない。「酒」と「人間」との関係は、もちろん、通常は、「人間」が「酒」を呑む(飲む)〔ちなみに「呑」は「天+口=のみくだす」、「飲む」は、「食+欠=あくび、大きく口をあける」で、「大きく口を開けた人が酒樽に向かっている」漢字。〕のだが、抽出歌では、逆に「酒桶」に「われ」を呑まそうとしているところが発想の核心。初句の「呑め」と第三句の「のめよ」の繰り返しや、第二句と結句との「酒桶」の繰り返しは、賢治の短歌的力量のほどを示すものともなっている。
(岩手大学特任教授) |