2007年 10月 1日 (月) 

       

■  〈賢治の歌〉888 望月善次 北面のみ薄雪置きて

 北面のみ
  うす雪置きて七つ森
  はるかに送る
  わかれのことば。
 
  〔現代語訳〕北側の面にのみ薄い雪を置いて七つ森(はいます。)(その七つ森に私は)遙(はる)かに別れの言葉を送るのです。

  〔評釈〕「大正八年八月より」〔「歌稿〔B〕」〕四十五首中の三十四首目の「742歌」。「歌稿〔A〕」からの異同は、原則的にはない。ただし、厳密に言えば、第四句は当初「か」と書き始めて抹消し、抽出歌の形となっている。「七つ森」は、盛岡市郊外雫石町にある賢治好みの山。短歌には十首ほども登場し、「屈折率」〔『春と修羅第一集』〕にも「七つ森のこつちのひとつが/水の中よりもつと明るく/そしてたいへん巨きいのに」と登場する。ところで「はるかに送る」の主体は何であろうか。「七つ森」だとして、「七つ森」が、私(達)に、遙かに別れの言葉を送るのだとしたい思いもあるのだが、無難なところは、明示されていない「われ」だとし、私が、言葉を送るのだとすることだろう。

(岩手大学特任教授)

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