ひややかに
雲うちむすび 七つ森
はや飯岡の山かげとなる。
〔現代語訳〕冷やかに雲を結んで、七つ森は、もう飯岡の山の陰になるのです。
〔評釈〕「大正八年八月より」〔「歌稿〔B〕」〕四十五首中の三十五首目の「743歌」。「歌稿〔A〕」との異同は原則的にない。初句の「ひややかに」は、客観的描写にして、話者の感情をも込め得る表現。話者の「七つ森」が見えなくなることへの哀惜の思いが込められているとも読めよう。「七つ森」「飯岡(山)」は、いずれも地名で、旧盛岡市街からすれば、「七つ森」は西方、「飯岡」は南東となる。「七つ森」は、『春と修羅』の冒頭作品「屈折率」の書き出しにも使用されているように賢治作品(特に初期)の中での重要な場所。ある物の向こうにある「七つ森」の在り方は、「屈折率」の「七つ森のこつちのひとつが/水の中よりもつと明るく/そしてたいへん巨きいのに」も通じよう。
(岩手大学特任教授) |