なぜわたくしは離れて来るその島を
じっと見つめて来なかったでせう
もういま南にあなたの島はすっかり見えず
わづかに伊豆の山山が
その方向を指し示すだけです。
たうたうわたくしは
いそがしくあなた方を離れてしまったのです。
(「三原 第三部」)
時間を忘れ、世間を忘れ、潮騒の中で賢治に読みふけりたいと願ったが、そうもいかない此の世の事情がある。
ラブハンバジョに別れを告げねばならない時間が迫ってきた。
思いを残しながら、車で15分ほどの飛行場に行ってみると、テクニック トラブルで飛行機は飛ばないと告げられた。おいの方は少し渋い顔をしたが、わたしの方は「潮騒の贈り物」だと感謝した。
コモド空港 (Bandara Udara KOMODO)(KOMODO Airport)という名さえもが親しい気持ちがした。(もっとも、地元の人はこの名前などほとんど使わず、もっぱら「ラブハンバジョの飛行場」と呼ぶそうである。)
もうその日の飛行機はなかったから、あと1日の潮騒を恵まれたわけである。
「三原 第三部」は、友人の伊藤七雄に乞われて農業指導(伊藤の妹ちゑとの見合いも兼ねていたと伝えられる)に出かけた大島からの帰りを素材としている。「三原 第二部」の「農業者としての賢治の成長」や、作品の中には、はっきりした形でこそ示していないが、ちゑへと傾いて行く話者の思いがほの見えるところが、わたしには印象深い。
コモド空港から、飛び立った飛行機は、離陸してすぐ「ラブハンバジョ(真珠)養殖場」を見下ろすことになるのだが、あくまで透明な海は、遠浅の海岸を、海の深さによって幾つかの色に鮮やかにまで分けて見せたのである。
「なぜわたくしは離れて来るその島を/じっと見つめて来なかったでせう」……ラブハンバジョの地をもっと良く見つめてくるべきではなかったか。それなのに、「たうたうわたくしは/いそがしくあなた方を離れてしまったのです。」
「ラブハンバジョ」への思いを込めて、稿を閉じることにしたい。
(おわり)
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