岩手医科大学附属循環器医療センター(岡林均センター長)の小児循環器医療チームは12日、新生児に対し、自己心膜(本人の心臓を包んでいる膜)をつかって心臓の大動脈弁を形成する手術に国内で初めて成功したと発表した。手術を受けた新生児は生まれつき大動脈弁の形成が不十分で、弁が閉鎖せず、血液の逆流によって心臓が肥大する重い疾患だった。現在、生後6カ月で経過は良好という。
岡林センター長、同センター心臓血管外科で執刀医の猪飼秋夫講師、小児科の小山耕太郎教授、麻酔科の門崎衛准教授が同日、記者会見し、治療の経緯を説明した。
手術を受けたのは、県沿岸部で在胎40週、2900グラムで3月に出生した男児。心臓の左室から大動脈へ押し出された血液をせきとめ、血流を調整する大動脈弁が生まれつき十分に形成されておらず、さらに心臓の左室と右室の中間に穴がある極めて重い症例だった。
生後7日目でショック状態に陥り、外科手術のため生後9日目に沿岸部の病院から同センターへ搬送。搬送中に心停止状態となったが心肺蘇生(そせい)に成功し、全身状態の回復を待って生後12日目に手術した。
大動脈弁膜症に対しては、一般的に人工弁を大動脈弁に置き換える手術などが行われているが、新生児の場合は患者のサイズに適した小さな人工弁がない。肺動脈弁を大動脈弁に移し替える「ロス手術」と呼ばれる手術も、男児の体への負担が大きく選択できなかったという。このため、自己心膜で8ミリほどの弁を作る手術に踏み切った。
成人に対しては、自己心膜で弁を補完的に形成する手術は行われているが、新生児の大動脈弁を一から形成しなければならないような症例は、極めてまれ。国内では初の治療例とみられる。
男児は術後16日目で人工呼吸器を外し、21日目で集中治療室から一般病室へ転室。36日目でいったん退院した。4カ月目の検査で心臓弁の働きが良好で、心室の穴も自然に閉鎖していることを確認。心臓と肺への負担を軽減するために主肺動脈にまいていたテープを外す手術を先週、実施した。体重も6・5キロまで増え、近日中に退院の見通し。
自己心膜で形成した弁は、永久に持つものではなく、今後、男児の成長や心臓機能の状態を見て、人工弁に置き換えるなどの手術を行う必要があるという。
猪飼講師は「ほかの手術が難しい新生児期に、重篤な状況を乗り越え、次の段階につなぐことがで
きた。セカンドチャンスをつくるという意味で有効な治療。成長過程にある小児の大動脈弁膜症の外科治療の領域で新たな治療選択の一つになる」と説明。
手術に直接かかわった外科、麻酔科のみならず、初期治療を実施して搬送した地元医師や小児科、看護スタッフといったすべてのサポートが適切に行われたことによって救命できたケースとしている。
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