2007年 10月 13日 (土) 

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉67 須川岳(すかわだけ、1627メートル)

     
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  亜硫酸ガスが水と混ざり硫酸になるから、ピリピリするのはそのせいだろう。大日岩から湧(わ)き出る高原の秘湯・須川温泉の源泉、みょうばん緑ばん泉のことである。いつぞや、湯でうっかり顔をぬぐい、目にしみて困ったことがあった。なるほど源泉が強酸性と聞き納得した。

  須川岳を、紅葉と温泉のセットで計画する登山者は多い。十五夜のお月見あたりに、見ごろ、登りごろ、温泉どきとして、なぜかあの刺激的なピリッとが脳裏に浮かぶ。そうだ、須川岳に行ってみよう。秋の山登りは、紅葉を愛(め)でて、温泉に浸るにかぎる。

  一般的には栗駒山として知られるが、あえて「須川岳」と呼ぼう。なんと言っても1120メートルの高所に湧く須川温泉は、人気ナンバーワンの岩手の秘湯である。

  湯の発見は古く、平安初期の歴史書「日本三代実録」に『酢川』と記されてあったとか。舐(な)めると確かに酸っぱい。山名と温泉は一緒がいい。須川の湯はあふれて流れ、湯尻沢となって磐井川にそそぐ。

  一方、日宮を祀(まつ)った秋田県は「大日岳」と名づけた。また、残雪のカタチから「栗駒山」と呼ぶ宮城県など、奥羽山脈の名峰にふさわしく、3県ごとに違う思い入れが、それぞれの名前に託されているのだろう。

  登山コースも10以上ある。私の場合は、夏季、もっぱら須川温泉から登っている。そして冬季は、宮城県側からイワカガミ平を経てスキーで入るので、わずか数コースを歩いているだけにすぎない。

  ここでは須川温泉コースを紹介しよう。一ノ関駅から西へ45キロメートル、国道342号を行く。途中、厳美渓温泉・矢櫃(やびつ)温泉・奥厳美温泉・祭畤(まつるべ)温泉・真湯温泉を次々に通過し、1時間半かけて須川ヘルスラインを駆けあがる。

  登山口は露天風呂の脇にあり、コンクリートの道を登る。天然蒸風呂の小屋を通って広々した名残ガ原の湿原に出て、その先2つの分岐を見送る。まもなく昭和19年の小爆発によってできたとされる昭和湖に出る。荒々しい岩山と剣山に囲まれたコバルトブルーの湖が、異次元の世界をかもしだす。

  ハイマツ帯を抜け主稜線(りょうせん)に上がると、3県の分岐なのでうっかりしないこと。頂上へは左だ。さらに露岩帯を20分歩き、神社・標柱・一等三角点の山頂に着く。眼下に赤や黄の須川高原が、そして奥羽の山々はえんじ色に続いていった。

  須川岳はスケールの大きい火山帯である。須川湖や白金草原・世界谷地も見逃せない。次は3県くまなく歩こう……私の思いが湯けむりの中でかけ巡った。

(盛岡市在住、版画家)

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