■ 〈胡堂の父からの手紙〉133 八重嶋勲 前略、突然の電報に驚いている
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■188罫紙・半紙 明治38年12月18
日付
宛 東京市本郷区第一高等学校寄宿舎東
寮四番
発 岩手県紫波郡彦部村大巻
前略突然ノ電報ニテ驚キ候、兎モ角本日十時頃十円電替致候、后三時ニ手紙配達ニ相成其多額ナル理由解リタルモ直様残ノ十七円送付スル都合ニハ不相成、今農工銀行より払込金六拾五円ニ執達役場ヨリ通知セラレ一週間内ニ調達セサレハ財産差押ヘヲ受クル場合ニ立至リ困難中ナリ先分ノ送金ハ十月二日電替ニテ金弐拾弐円、十月十六日拾七円送付セリ、十一月分受領証家内ニ仕舞置キタル為メ未タ不明ニ候、贅澤ノ人ニ比レハ劣等生活ナルモノゝ如クナレ共当方家内生活上推察アリタシ、如何ナレバ如斯宿費筆巻紙等外斗(計)算スルニ多額費消ノ理由殆ント疑義ヲ入レサルヲ不得次第ニ候、殊ニ本年ハ凶作ナリ賣米ノ如キ上納金ニモ家事費ニモ不充、毎度申述フルモ毒ノ気(気ノ毒)ノ次第、如斯ニテハ遂ニ学業半途ニセシムルノ外ナカルベシト思ヘハ、実ニ心配致居候、如斯次第ナレバ冬期帰郷ハ随意注スヘシ、是トテモ老祖母等ノ待居ルヲ見ルモ気ノ毒ナレ共、経費上如何共不止得次第ニ候、「十一月分送金高ヲ必要ニ候ハヽ折返シ可申越候、右回報旁々事情ヲ述ヘ候、早々
三十八年十二月十八日 野村長四郎
野村長一殿
毎度試験時期ニ臨ミ学費経済ヲ云々スルハ甚タ気之毒ニ被思候得共、不止得次第ニ候、冬期帰郷ヲ止シタルコトニ付老祖母等ノ落膽実ニ気之毒ニ候、
学費ニ就テハ佐藤居太郎同庄兵衛等ハ多分十五円ニテ毎月間ニ合セ居由、当方ハ今回迄斗(計)算スル時ハ平均月々弐十円以上ノ斗(計)算相成ル、如何(ニ)贅澤スルヤ実ニ不番ニ候、
【解説】「前略、突然の電報に驚いている。ともかく本日10時頃、10円電報為替で送金した。午後3時に手紙が配達になり、その多額である理由が分かったが、すぐさま残りの17円を送付する都合にはならない。今農工銀行から借金の払込金65円について、執達役場から通知があり、1週間以内に調達し払い込みしなければ財産の差し押えをするということであり、困難をしている。
先に送金した分は、10月2日、電報為替で22円、10月16日に17円送金した。11月分の受領証を家内にしまっておいたため、まだ不明である。
ぜいたくの人に比べれば劣等生活だと思うが、当方の家の生活を推察してみてほしい。どうすればこのような宿費、筆巻紙等外を計算するに多額の費消の理由はほとんど疑わざるをえない。ことに本年は凶作で売った米代金は、上納金(税金)にも家事費にも足りない。
毎度申し述べるも気の毒であるが、このようでは、ついには学業半途で終わらせるほかないと実に心配している。このような次第では、冬期帰郷は随意であるが、これとても老祖母らの待ち望んでいるのを見ると気の毒であるけれども、経費上やむを得ない次第である。
11月分の送金高が必要であれば折り返し返事をするようにせよ。右回報かたがた事情を述べた。早々
(追伸)
毎度試験時期に臨み、学費経済を云々するのは甚だ気の毒に思われるが、やむを得ない次第である。冬期帰郷をやめたことで、老祖母らの落胆は実に気の毒である。
学費については、佐藤居太郎、同庄兵衛らは15円で毎月間に合わせているとのこと。当方は今回まで計算するに、平均月々20円以上の計算になる。いかにぜいたくするや、実に不審である。」という内容。
差し当たって、岩手県農工銀行の借金の払込金の資金調達をしなければ、自家の財産が差し押えとなるのである。
後年、野村胡堂が、このことを述懐している。「父が死んで驚いたことには、父にはその当時で5万円の借金があった。彦部村の馬産奨励のため、私財を抵当に入れて農工銀行から借金をし、種馬を買った際のものであるということであった。その借金を全部背負うこととなって、払うのに25年かかった」と随筆に書いている。
多分この返済払込金であろうと思われる |
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