■ 〈胡堂の父からの手紙〉136 八重嶋勲 試験では何番くらいの位置にあるか知らせよ
|
■192巻紙 明治39年1月16日付
宛 東京市本郷区第一高等学校寄宿舎東
寮四番
発 岩手県紫波郡彦部村
前略申越之金子金拾弐圓送金致候ニ付領収之上ハ通報可相成候、申込高ヨリ貮圓不足ニ候得共本日迄ニ金束(策)度(致)兼候、可相成間合セ可致候、祖母之病気別ニ異リタルコノモ無之春ニモ相成候ハヽ或(ヒ)ハ家内ヲ歩行スル位ニ至ルヘクト被思候、余者後便ト申残ス、早々
一月十六日 野村長四郎
野村長一殿
【解説】「前略申し越しの金子金12円送金するので領収の上は通報するように。申込高より2円不足であるけれども本日までに金策しかねた。なるべく間に合わせるようにせよ。祖母の病気別に異なったこともなく、春になればあるいは家の中を歩行するくらいになるのではないかと思われる。余は後便に申し残す、早々」という内容。
いつもの送金の案内と祖母の中風が、だんだん回復してきている様子が知らされている。
■193巻紙 明治39年2月25日付
宛 東京市本郷区第一高等学校寄宿舎東
寮四番
発 岩手県紫波郡彦部村
前略過日金拾九円送付セシ筈定メテ着手ナラン、
祖母其後ハ経過別段ニ変リタルコト無之敢テ快方之様子モ無之ハ実ニ困リ候、其他家内親戚ニ頓而変リタルコトモナシ、本年之残寒ハ厳敷、未初寒之如クニ候、凶作ノ影響不景気ナルコトハ増々金融不通、過半口糊ニ困難スルモノ願出スル次第、新聞紙ニ見ル限リ普ク義捐モ有之様之コト故窮民救済ハ應分ノ事モ可有之ト被思候、却テ中位以上ノ生活スルモノ則チ外観財産アルモノニシテ実ハ不如意ナルモノニ至ツテ意外ノ轉変スルモノアリ、我家モ其数ニアルナラント被存候、目下ノ学業又ハ其校内ニハ早稲田ノ如キ凶作地出校者ニ対シ特別ノ方法等ヲ講スルコトナキヤ聞及度候、岩ノ澤ノタミエモ男子ヲ産ミ岩太郎ト名称セシ由ニ候、是又母子共至テ強健ナリ、岩ノ澤ノ次男松蔵モ去ル七日帰郷セリ、
過二期試験ニ何番位ノ位置ニアルカ是又聞及度候、今回十八円請求ニ候処金束(策)ニ困難シ今拾円丈送金シ、残八円ハ来ル三月五日頃迄送金スヘクニ付其事ニ承知セラレ度候、
演説筆記ノ如キモノ有之候ハヽ送付セラレ度候、
祖母ニ者家内ノモノ克ク親切ニ世話貰ルニ付安心セラレ度、誠ニキクエノ如キ親切実母ノ如ク呉ルヽ感心ナリ、如此コトハ修身ハ義挙ナレハ同人ヘ手紙ヲ以テ尚ホ償シ尚ホ教ヘ置クベシ、余者後便ニ相譲ル、早々
二月廿六日 野村長四郎
野村長一殿
【解説】「前略、過日19円送付したがきっと受け取ったことであろう。
祖母はその後の経過は別段変わったこともなく、あえて快方の様子でもないので実に困っている。その他家族や親戚に特に変わったこともない。
本年の残寒は厳しく、未だ初寒のようである。凶作の影響で不景気であり、ますます金融不通、半分の者が口糊に困難し願い出る次第である。新聞に見る限り遍く義捐もあるようで、窮民救済は応分の事もあるべしと思われる。かえって中位以上の生活者、即ち外観財産のある者が実は不如意に至って意外の転変をする者がある。わが家もその数に入っているならんと思われる。
目下の学業またはその第一高校校内には、早稲田(学校)のように凶作地からの出校者に対し特別の方法等を講ずることがないのか、聞き及びたいものである。
屋号岩ノ澤(隣村長岡村)のタミエ(長一の妹)も男子を産み、岩太郎と名づけたとのこと。これまた母子共いたって強健である。岩ノ澤の次男松蔵も去る7日帰郷した。
過ぐる2期試験では何番位の位置にあるか、これまた聞き及びたい。今回18円の請求の金策に困難し今10円だけ送金する。残り8円は来たる3月5日頃までに送金するのでそのように承知されたい。
演説筆記のようなものがあれば送付するように。
祖母には家族の者が、よく親切に世話をしているので安心されたい。誠にキクエの如き親切は、実の母へのように世話をしてくれるので感心している。このようなことは修身の義挙であるので、同人へ手紙をもってほめ、教へおくべし。余は後便に相譲る、早々」という内容。
大凶作のため、景気が悪く金融不通で、半分以上の者が、食べ物にも困難し願い出ている。外観財産のあるような層が、かえって困窮し、転落していく。わが家もその数の中に入るだろうと悲痛である。
(岩手県歌人クラブ副会長兼事務局長)
|
|
|
|
|
|
|