■ 〈県立大学が目指すもの〜谷口学長多いに語る〉1
|
■国際派
私は国際派とよく言われますが、外国では日本人ほど「国際」という言葉は使いませんよ。日本の大学では、よく国際という名称を付ける。国際と付けるとなんだかハイカラなイメージがあるのかもしれないが、実態が伴わないからこそ「国際」という言葉を使いたがる。一種のコンプレックスかもしれませんね。
外務省とか国際機関にいたために、国際派というイメージが先行してしまって、「国際的に活躍できる人材を育てる」ということが、あの学長は、人材を県外に出すことを目指しているのか、と一部の人に誤解されている。心外です。
私を含め、緒方貞子さんにしても、明石康さんにしても国際舞台では誰よりも日本人を意識していたと思います。語学ができるだけでは国際舞台で活躍できません。求められるのは日本人としてのモノの考え方、アイデンティティー、あくまで日本人としての素養。新渡戸稲造は日本人としてのアイデンティティーがあったからこそ「武士道」を執筆できた。
■平等の精神
フランスの3色旗は「自由、平等、博愛」を象徴しています。これは、現実のフランスがそうでないからこそ、目標に掲げるのではないでしょうか。「平等」という点では日本のほうがはるかに平等です。
OECD(経済協力開発機構)にいた時、7時間ぐらいかけて車でパリからジュネーブまで向かったことがある。朝出発して夕方着くわけです。運転士さんは安いホテルに宿泊するのですが、僕はインターコンティネンタルホテルに泊まる。(そこで、お礼の意味を込めて)運転士さんを夕食に誘った。運転士さんは「いやあ」と断ったが、無理に一緒に食事をした。運転士さんは非常に緊張していました。
その話が後から漏れてOECDの事務総長に呼ばれた。「あなたはOECDの事務次長だ。運転士と食事するのはやめなさい」と。「なぜでしょうか」と聞きました。フランスは「平等」を掲げている。運転士さんだろうが、なんだろうが、せっかく7時間もドライブしてくれて感謝の意を込めて、ごちそうするのが、なぜ、悪いんでしょうか、と言ってもですね、ぜんぜん考え方が違うんです。
例えば、クリスマスの時、「お祝いだから、みんなでランチでも」と誘ったら、僕の秘書もタイピストも、やはり「運転士とは格が違う」と言うんです。運転士さんも嫌がる。やはり階級社会です。それから見ると日本は、まったく違いますね。ソニーの社長でも工員と同じ服装をして工場に出て、たまには一緒に社員食堂で食事をする。あれを見ているとね、日本のほうが平等じゃないかという気がします。そういう意味で、スローガンと実態は違う。
■大事なのは人間の中身
国際的な経験を積むことは必要です。しかし、しっかりした、立派な日本人でない限り、活躍はできない。そんなに甘い国際社会ではありません。言葉ができるだけでは駄目。
科学技術関係でも、しっかりした能力を持って、日本でも、りっぱに通用する人でない限り、飛び出したところでうまくいきません。逆立ちしたってフランス人よりフランス語がうまくしゃべれるわけないです。
OECDでも何が求められたかといえば、僕のフランス語よりも、英語よりも、やはり、僕の持っている経験とか、日本人ですからアジアをよく知っているとか、モノの考え方ですよね。結局、中身がないと駄目なんです。
明石さんだって、緒方さんだって、彼らが活躍できたのは中身があったから。単なる語学からいえば、緒方さんは別だけど、明石さんも、僕もそんなに上手じゃないですよ。明石さんは秋田弁の、僕は大阪弁の英語なんて言ってますけどね。だが、意見は言う。自分の考え方がしっかりしていなければ駄目だということです。
僕は県立大で授業をしています。1時間半の授業で30分間はディベートをやろうと思っても、なかなか30分は持たない。大学の中の先生で僕の授業を聞いてくれる人は質問してくれますが、若い学生さんはなかなか。当てて、思うところを言ってもらわないと答えてくれない。岩手だけでなく、東京もそうなんですが。
岩手の学生は素晴らしく身だしなみもいいし、私語も少ない。いねむりも堂々とやる人はいない。まじめです。しかし、自分の意見をみんなの前で発表するとなると、意外と控えめです。新渡戸稲造、後藤新平、宮沢賢治といった偉大な人を出しているのに、なぜ、今の学生が、いささか内向き志向になるのでしょうか。
素晴らしく粘り強い、頑張りはある。しかし、もっと外へ出さないと。そこが岩手の人にとっては美徳なんでしょうか。
(つづく)
◇ ◇
【谷口誠氏】(たにぐち・まこと)一橋大、ケンブリッジ大セント・ジョンズ・カレッジ卒後、59年外務省入省、パプア・ニューギニア大使、国連大使を経て90年OECD事務次長(日本人初代)。97年から東洋英和女学院客員教授、早稲田大アジア太平洋研究センター教授、早稲田大現代中国研究所所長。77歳。 |
|
|
|
|
|
|