2007年 11月 6日 (火) 

       

■  〈イタリアンチロルの昼下がり〉30 及川彩子 アスコリの侍たち

 ヴェネチアから、アドリア海沿いに南へ約400キロ。ここに中世の町アスコリがあります。オリーブの産地で有名なマルケ州のほぼ中心に位置するこの町で「日本文化の夕べ」が開かれました。9月末のことです。

  アスコリは、城門を入ると石畳に、歴史的建築物が建ち並ぶ美しい町で、人口約5万人。

  いつごろからかは分かりませんが、市民の間では柔道や合気道、空手など日本武道が大人気。フィレンツェやローマの愛好者たちと、大きな大会を開いていると聞きました。

     
   
     
  「日本文化の夕べ」のテーマは『和』。武術と、私の伴奏で、友人の中沢房子さんが歌う「アンサンブル古都」の組み合わせです。

  房子さんは、ヴェネチア在住のソプラノ歌手で東京芸大大学院出身。イタリア留学中に国際結婚し、娘のサラちゃんはクラリネット奏者で琴も弾きます。私たちは方々に招かれ、日本歌曲や民謡等も紹介しているのです。

  私の住むアジアゴからアスコリまで車で5時間。会場は市庁舎ホール。出迎えてくれた主催者のクリスティアーノさんは、なんと袴(はかま)姿でした。すでにホールは、お年寄りから若者まで200人余りでいっぱいです。

  日本刀の研磨−日本歌曲−弓道−居合い−抜刀術〔写真〕と続くプログラム。シャキシャキと刀を研ぐ音、キリキリと弓を絞る音、ヒュッと空を切る真剣、畳を擦る素足の音が、静まり返ったホールを包んでいきました。

  演技者は、その道何十年のイタリア人武道家たち。あふれ出る「気」は、私たち日本人が忘れかけている「和」の呼吸そのものでした。

  クリスティアーノさんも、抜刀術20年のベテランです。「車や携帯電話など、雑音だらけの今だから、静寂の中での鍛錬が大切。日本の武術も音楽も精神そのものですね」と語るのでした。

  大きな歓声で幕を閉じた後、出演者による打ち上げ会は、ワインの飲み放題。「侍たち」が陽気なイタリア人に戻る瞬間でした。

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