■ 〈谷口学長大いに語る〜県立大学が目指すもの〉3 地域とどう結びつけるか
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■地域貢献が目標
県立大には看護、社会福祉、ソフトウエア情報、総合政策の4つの学部がある。看護、社会福祉、ソフトウエア情報学部は目的がはっきりしています。一番、難しいのが総合政策学部。総合政策学部を何とか地域貢献できる学部にしたい。良い先生もいます。しかし目標がはっきりしない。経済あり、経営あり、法律あり、環境あり、みんなバラバラで一体化されていない。県立大のこれからの一番の課題は、いかに、これらを一体化して地域貢献に結びつけるかということです。
改革は大変なことです。学部というものには壁があります。独立法人化して徐々に理事長や学長の権限を増やしていますが、日本の大学はどちらかというと学部が独立していて理事長、学長の介入は許さないという伝統があるわけです。独立法人化したからもっと変わるんだろうと思われるかもしれないが簡単ではない。
■過去数年にわたり最優秀学生賞
西澤先生が力を入れたソフトウエア情報学部は情報処理学会で過去数年間にわたって最優秀学生賞の受賞者を出しています。その分野での評価は高いが、意外と知られていない。
東京に出て行って、うちの大学は情報処理学会で最優秀学生賞を取っています。東大、京大、東工大、慶応、早稲田よりも最優秀学生賞は多いと言うと「それほんと?」と言われる。全国の学長会議の時も、食事の時に話すと「それほんと?」というのがだいたいの反応です。岩手の新聞では、小さな記事で紹介してくれますが、一般の県民だって分からないわけです。
県の中でも県立大の存在感が薄いというのは、滝沢村にあるということもあるでしょう。岩手大学などは歴史がありますからね。だが、うちの大学の先生も、けっこう頑張っている。延べ人数にして県の委員会に、年間1200人ぐらい参加しています。遠野市、二戸市、紫波町などと組んだり、ICSといった民間企業とも連携協定を結んでやっている。でも、県民にはあまり知られていない。
これはね、広報がヘタなんです。先生というのは広報がヘタな人が多いんですが、県立大は職員も役人です。記者クラブに資料を投げ込んだからもう大丈夫だと思ってしまう。しかし、これでは駄目なんですよ。結果、使ってもらえなかったら終わりです。
■教育にはお金がかかる
文部科学省もあるいは財務省も大学にかける予算は減らしていますね。国立大学も1%毎年カット、県立大学は1・5%カットです。独立法人化というのは、もう自分でお金を集めてこいということなんです。それを考えると、県立大は県がまだ40数億円を出してくれている。県立大の60数億円の予算の70%近くは県の財政資金です。県に貢献しない大学はやはり、県立大としては存在価値がない。
ただ、教育にはお金がかかります。県立大は開学してまだ10年。子供です。来年10周年に向け、いろいろ改革しようとしている時に、財政的な面からだけ見て「お荷物だ」と言われるのはつらいですね。
教育問題に財政を持ち出し、教育者じゃない人が口を出し始めると教育は育っていきません。最近のOECD(経済開発協力機構)の資料でも、先進国の中の国際比較で、日本はGDPに占める教育への公共投資が最も低い。文部科学省も慌てているわけです。
先進国がこの先、生き延びて発展していくには教育、特に科学技術の向上しかない。日本は国庫の赤字を減らすために、2012年までにプライマリーバランスの均衡を図ることを目指しています。経済のバランスは重要な問題ですが、しかし、教育を経済だけでみるならば、とんでもないことになる。大学へは今の国庫から出るお金の50%でいいとか、ああいう発想は文部科学省ではなく、財務省から出てくるわけです。
■教育は国家の基本
銀行は資本主義経済では潤滑油の役割を果たします。しかし、銀行だけを助け、銀行が良くなれば日本の経済は良くなるか、といえば必ずしもそうじゃない。科学技術の進歩がなければ企業だって遅れてくる。
中国、インド、シンガポールも大学のために、ものすごくお金を使っています。中国は北京大学、精華大学にばく大な投資をしている。共産党政権だから、できるのでしょうが、2つの大学は先生の給与をほかの大学の2倍にし、住宅の提供も、というふうに差をつける。というのも、2050年までに北京大学と精華大学をアメリカの一流大学に匹敵するだけの大学にしたいとの目標があるからです。
アメリカに留学した中国人を引き戻す。留学した優秀な人材が、アメリカに居座わってしまったら困るわけです。ベンチャー対策も徹底しています。北京大学、精華大学の周りに「中関村」というのを作って、ベンチャーのために建物を用意し、成功するまでは無税にするとか、低利で住宅を提供するとか。
「海亀」と呼ばれる海外から帰国して研究者や創業者として活躍している人材を大事にする。海亀は生まれ故郷のビーチに戻ってくるわけでしょ。
■人材流出をどうする
先日、二戸にうかがった時、やはり人材が外に出てしまうと、言っていました。地域が活性化してこないと人材は出てしまいます。県立大を見ても残念なことに卒業生の65%は県外就職です。県内は35%。だんだんその格差が広がってくる。特にソフトウエア情報学部は県内は22%です。78%は外。これが現実です。そうなると、いかにして、いったん外に出た人に県内へ帰ってきてもらうかです。
そういう意味では、滝沢村と県立大の地域連携研究センター内に作る産業振興施設「滝沢村IPUイノベーションセンター(仮称)」なんかはものすごく意味がある。
あのプロジェクトがうまく育ってくれれば、間違いなく岩手の産業、人材養成に貢献できる。産業の集積が図られれば、県立大の優秀な学生も岩手で働けるようになります。そのために県立大も頑張るわけです。まだ、ベンチャーの数は少ないですが5年後、10年後に成果が現れてくれば、県民も、もっと違ったイメージを持ってくれると思います。
■県立大学の学生には高い評価
県立大のITは全国的にみてもトップレベルのものを持っています。看護学部や社会福祉学部も、独り暮らしの高齢者のモニターなどソフトウエアの力を使いながら地域に貢献する研究もできます。学部が連携しながら地域に貢献できる体制を築かないといけない。
先日、東京新聞で、東京のある企業で夏休み中、アルバイトをした県立大の2人の学生が非常に礼儀正しく、優秀だと紹介されました。前知事の増田さんが気が付いて、県の東京事務所を通してコピーを送ってくれた。うれしかった。増田前知事の時代から申し上げていますが、われわれも県庁や市町村に優秀な人材を送り込む努力をする、県側も、もっと県立大の卒業生の採用へ道を開いてほしい。(つづく)
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【谷口誠氏】(たにぐち・まこと)一橋大、ケンブリッジ大セント・ジョンズ・カレッジ卒後、59年外務省入省、パプア・ニューギニア大使、国連大使を経て90年OECD事務次長(日本人初代)。97年から東洋英和女学院客員教授、早稲田大アジア太平洋研究センター教授、早稲田大現代中国研究所所長。77歳。 |
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