2007年 11月 11日 (日) 

       

■  〈胡堂の父からの手紙〉137 八重嶋勲 「東北地方の大凶作を知らないのか」

 ■194巻紙 明治39年3月18日付

宛 東京市本郷区第一高等学校寄宿舎東

                寮四番
発 岩手県紫波郡彦部村
前略目下種々出来事且ツ繁忙ヲ極メ死スル斗(計)リニ候、
昨日ノ電報一七円之送付セトハ、前回モ申述候通如何之理由ナルヤ、北東ノ凶作ヲ知ラヌカ、壱円ノ金員ヲ借用スルニモ容易之事ニ非ラス、穀類ノ賣代ハ皆無、拾円金借用スルニ途ナシ、如斯贅澤セラルヽニ於テハ到底堪ユル事ニ無之、鎌倉見物ノ如キ仮令岩動病気保養ノ行キ居ルモノニセヨ、当方ノ困難ハ同人モ知リ居ルナラン、其他ノ事ニ就テハ何ノ用ヲナシ(ス)モノニアラサルベシ、目下百難ヲ犯シ啻ニ学校アルノミ、学問ノ必要ノミ心掛ケ候ハヽ経済ノ為メ其身ノ実ニ父母タルモノノ欲スル処ナリ、今ノ財政ハ実ニ困難ナリ、尤モ当地ニ於テ拾銭ヲ得ントスルニ当リ三日役セサレハ得ル不能様ノ状況ニ候、
一月頃トハ別世界ノ観察アリ、突然十七円金ヲ得ルノ途ナシ、如何共当惑ナリ、昨九月以来彼是一ヶ月三十円平均ノ割合ニ支出シアリ、推考スルニ普通ノ費消ニ無之ベシ、如何ナレバ如斯贅澤スルヤ□敷、且ツ到底学資續クル訳ニハ出来間敷、将来ノ心掛一通聞得度候、取急キ右用事迄、早々

   三月十八日       野村拝

    野村長一殿

  祖母ニ別ニ相変タルコトナシ
 
  【解説】「前略、目下種々と出来事があり、かつ、繁忙を極めていて、死ぬばかりの状況である。

     
  神奈川県鎌倉の風景  
 
神奈川県鎌倉の風景
 
  昨日の電報の17円の要求は、前回も申し述べたが、どのような理由であるか。東北地方の大凶作を知らないのか。1円の金員を借用するのにも容易のことではない。穀類の売り代は皆無。10円の金を借用するのに道がない。このようなぜいたくをするのでは到底堪えることができない。鎌倉見物のごときはたとえ岩動(露子であろうか)が、病気保養で行っているものにせよ、当方の困難は同人も知っているだろう。その他のことについては、何の用をなすものでないだろう。目下百難を排し、ただただ学校のみ学問の必要のみに心掛けてほしい。苦しい経済の上から実に父母たるものの欲するところである。今の財政は実に困難である。もっとも当地において10銭を得んとするには3日働かなければならない状況である。

  1月頃とは別世界の観察である。突然17円の金を得る道はない。なんとも当惑している。昨9月以来、かれこれ1カ月30円平均の割合の支出である。推考するに普通の使い方ではないのではないか。いかなればこのようにぜいたくをするのや。到底学資を続ける訳にはゆかない。将来の心掛け一通り聞きたいものである。取り急ぎ右用事まで、早々」という内容。

  大凶作下にあえいでいるのに、長一からの学資送金の催促。それも他の学生に比較してかなり多額である。毎回父が手紙で窮状を知らせているのに、一向に理解を示さず、家の財政の非常な困難を全く顧みず、一体何に使っているのであろうか。父長四郎ならずも疑問である。その理由を知りたいものである。

  (岩手県歌人クラブ副会長兼事務局長)

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