2007年 11月 13日 (火) 

       

■  〈賢治の歌〉929 望月善次 さながらに刻む心の

  同
  さながらにきざむこゝろの峯々にい
  ま咲きわたす厚朴の花かも
 
  〔現代語訳〕まるで、さいなむ心の一つひとつの峯に、今一面に咲いている厚朴の花ですねぇ。

  〔評釈〕「大正十四年四月」〔「歌稿〔B〕〕五十二首の二十三首目の「785歌」。「同」の文字が添えられているから、「784歌」と同様に「随縁真如」をテーマにした作だと言えよう。第四・五句は、当初「のなかにもここはもなかなりしか。」の形であった。初期短編「〔峯や谷は〕」の中には、「けはしくも刻むこころのみねみねにさきわたりたるほゝの花かも。」とあり、また童話「マグノリアの木」には、「けはしくも刻むこゝろの峯々に いま咲きそむるマグノリアかも。」とある。初期の形、抽出歌、「〔峯や谷は〕」及び「マグノリアの木」の微妙な相違が限りなく興味をかき立てるが、いずれの場合においても、見事なまで咲き誇っている「厚朴(こうぼく)の花」があって初めて成立するのである。

  (岩手大学特任教授)

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