2007年 11月 17日 (土) 

       

■ 〈ブランド力を生かせ〜盛岡リンゴ〉下 良質の酸味に集まる視線

 東京からレストランや小売りのバイヤーなどの関係者が10月に入り、盛岡に来た。行き先は下厨川の果樹研究所。同研究所にはフジの原木があるのは知られているが、敷地内には観賞用なども含め世界のリンゴ品種の木がある。それらを見に来たのだ。

  国内のリンゴ市場はフジ全盛。かつて主流の紅玉の生産は盛岡でもきわめて限られている。消費者が甘さを求め、糖度が追求された結果、すっぱい品種はかげが薄い。だが、料理や菓子、加工品には酸味のある品種が向く。型崩れもしない。甘みは調整できるが、酸味はそうはいかない。食材本来の味わいだ。海外勢のレストランなどは料理に合う酸味のある品種を探しているという。

  同研究所でも生食以外の用途にも目を向け、新品種の研究、普及に取り組む。「すっぱいリンゴづくりは寒冷地の方が向く」と別所英男リンゴ研究チーム長。たとえば「メイポール」という品種。リンゴの原種に近いとされ、小さいが、肉が梅干のように赤い。昨年岩手中央農協の協力でミックスジュースが試験販売され、完売したという。試飲させていただいたが、甘いだけのジュースと違い、アセロラを連想させる味だった。

  欧米ではリンゴはかじりながら歩くなど、ごく日常の食べ物だが、日本では贈答などの需要も多く、価格がやや割高だ。ヨーロッパでは「おばあちゃんのリンゴパイ」といった風に家庭のお菓子づくりにリンゴが根づいている。

  英国にはそんな菓子にぴったりの定番の品種があるという。果樹研究所は盛岡周辺の洋菓子店などと協力してメイポールを使った菓子も試作済み。「特殊な品種の普及には消費者を巻き込むことが必要。ストーリー性のある品種が受け入れられやすい」と別所氏はみる。

  三ツ割や盛岡東部に農園をもつ下久保農園の熊谷峰男さんはレストランの要望にこたえられる品種に注目する一人だ。農園でもすでに、フランス料理などに使える新しい品種を植えて、可能性を探る。ただ、かなり時間がかかるとみている。

  熊谷さんは都内で10店ほどのレストランに定期的にさまざまな食材を供給しており、消費者に近い需要家との接点をもつ熊谷さんはその動向に敏感だ。盛岡のリンゴが新しい市場を切り開く可能性を秘めている。

  大阪など西の地方は東に比べ、酸味のある品種が好まれるという。盛岡では甘いリンゴが好まれ、贈答は他県では東京が多いだけに生産は甘い品種が多い。岩手では江刺リンゴが大都市の卸売市場で評価が高い。農協が産地の集団化を進め、営農指導を徹底した結果という。

  盛岡では「すぐれた農家は多いが、恵まれた生育環境にあるためか新しい技術の導入や市場開拓などで腰が重い」といった指摘もきかれる。

  短角牛、白金豚など、岩手の食材が評価されているのは、はからずもレストランなどのプロ。供給量が限られているだけに一般の取引市場では評価されにくい半面、独自の品質がきちんと伝わり、素材を吟味してくれるプロ市場は有望だ。贈答でトップブランドの地位を確立するだけでなく、新たな市場で盛岡リンゴを開花させたい。

  (大谷洋樹)

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