品川をすぎてその 若ものひそやか
に写真などをとりいだしたるかも。
〔現代語訳〕品川を過ぎて、その若者は、密かに写真などを取り出したのですねぇ。
〔評釈〕「大正十年四月」〔「歌稿〔B〕〕五十二首中の四十二首目の「804歌」で、「旅中草稿」四首の四首目。「その」の後の空白はいったん書きかけた後の抹消による。「写真」の「写」は「うかんむり」になっていて旧字「寫」との混合。また、「写真」の左脇から「夜はあけて/山々に白雲かゝり/さつま隼人」などの書き入れがあり、文語詩未定稿「隼人」のメモとなっている。文語詩「隼人」やその異稿を見ると、この若者が写真を見て涙を流し続けていたことや隣の老い商人に「田原坂(たばるざか)」のことを話しており、薩摩隼人が浮かぶのだが、抽出歌の範囲でそうした推察はとても無理。むしろ結句の「かも」を除くと、抽出歌においても「散文調をそのまま短歌にした」ところが印象的。
(盛岡大学学長)
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