今週の1冊は、ペン画で民家や伝統産業を描き続ける作者が、1本のクスノキを中心に、このくにの来し方、行く末ドキュメンタリータッチで描いた「定点観測」絵本です。
江戸時代末期。遠くに低い山々を望む、のどかな丘陵地帯。川辺にたくましく根をおろし、周辺に目を配るかのようにして、あるいは周辺に生息する鳥や獣たちにとってのランドマークとして、クスノキはありました。時の流れはゆるやかで、これまでと同じように、これからもそれは続いていくのが、自然の摂理。やがて明治の世、肥沃な土地は人を呼び、田畑が起こされます。
このとき、人は自然の連鎖の中にあって、その一構成員としての役割を果たしていたと言ってもよかったかも知れません。ただ、時の流れのペースは、コマ落としのようにだんだんと加速度がついていくことに。湿地は埋め立てられ、電気が引かれ、集落は町に、都市へ。時は昭和。戦火、その後の復興…。
建設と破壊、めまぐるしい「発展」。今や孤高となったクスノキは、何を見つめ、何を感じているのか。時の流れ、人の営み。さまざまなピントで読みたい、味わい深い1冊です。
【今週の絵本】『ニッポンの風景』島田アツヒト/作、あすなろ書房/刊、1680円(税込み)10歳〜(2004年) |