雲ひくく 桜は青き夢の列(つら)
汝は酔ひしれて泥州にをどり。
〔現代語訳〕雲は低く垂れ、桜は青い夢のように並んでいます。(こうした情景を背景に)お前は、汝はぐでんぐでんに酔って泥州に踊っています。
〔評釈〕「大正十年四月」〔「歌稿〔B〕〕五十二首中の四十八首目の「810歌」で、「東京」七首の六首目。文語未定詩稿「隅田川」の前半の書き入れと言われていて、『新校本』は「桜は青き夢の列/汝は酔ひしれてうちをどる/泥州の上にうちをどる」と整理している。〔ちなみに、「隅田川」全二連の、第一連は「水はよどみて 日はけぶり/桜は青き 夢の列/汝は酔ひ痴れて うちをどる/泥州の上に うちをどる」となっている。〕。「しれ(痴れ)」は、「領(し)る」の受身形で、『支配される』が原義だとも言う〔『広辞苑』〕。ご存じのように、「隅田川」では、第二連においては、酔わない「汝」が対比的に登場するのだが、抽出歌の「汝」は、いかにも唐突で、この不親切さも賢治的。
(盛岡大学学長) |