「今日は、センイチからいくわな。センイチの6番」
バンマスがステージに上がりしな、声をあげた。
「ほな、いくで。ワン、ツー、スリー、フォー!」
ピアノが、4小節のイントロを弾き、テナーがメロディーを吹きだす…かつてのバンドの世界での日常的光景だった。「センイチ」とは、そのものずばり、数字の1001のことだが、いわゆる大げさな中国的表現で、1001曲もの楽曲が載っている本という意味なのだが、実際にはせいぜい300曲くらいのものだった。
この本は、出版元も著者も載っていない海賊本で、譜面もほとんどが手書きで、それも何人かの手によるものだった。中には、読みにくいものもあれば、イントロからアドリブの一部までかいてあったりする玉石混交だったが、大阪のバンドの中では必携だった。目端の利く業界人が編さんして販売していたのだろう。著作権の関係で、発行元を明かすわけにはいかなかったのだと思う。
「赤本」というのは、「日本の歌謡曲全集」という、こちらは立派な楽曲集で、今でも毎年編集しなおされて出版されている。よく歌われる歌謡曲が網羅されており、イントロ、間奏、エンディングまで原曲通り譜面になっており、客の歌伴に欠かせない1冊だった。
こちらは収録曲が1000に近かった。さて、これを何故「赤本」というのか、答えは簡単、表紙が赤かったからだ。(興味のある方、楽器屋の楽譜コーナーをのぞいてみてください)
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