2007年 12月 17日 (月) 

       

■  〈岩手の粉食文化を代表・ひっつみ〉1 大谷洋樹 おらほの味を掘り起こそう

 雑穀や麺(めん)ブームにおされている郷土食がある。ひっつみだ。小麦粉をこねて、ひっつまんで汁にいれたことから呼び名がついた県北の料理で、県南でははっとともいう。つくられることも少なくなり、なじみが薄れた郷土食だが、地域の個性豊かな食として潜在的な実力は十分、広く「おらほのひっつみ」を掘り起こしたい。鍋のおいしい季節、岩手の粉食文化を代表するひっつみの魅力に少し迫ってみた。
(大谷洋樹)

 「家庭でつくる人が少なくなった」。九戸村のさいとう製麺の斉藤真社長は10年ほど前からゆでひっつみを製品化した動機を話す。ほかで製品化していない付加価値の高い商品をという狙いもあった。ごはんが足りないときなどにつくられた家庭の食事だった。粉をこねたり、寝かしたりと手間と時間がかかり、あわただしい現代にあわなくなった。手軽に食べられるならという潜在的な需要があるようだ。

  売れ行きがいいのはむしろ県外。ひっつみになじみが薄い客が少なからず購入しているようだ。戦後食糧難の時代のすいとんと同列にされることもあるが、斉藤社長は「代用食だったすいとんとは違う。ひっつみは具も豊富」と強調する。生地はよくこね、薄くのばすから、こしが強く食感もよくなる。

  以前からひっつみを手がける一戸町の戸田久は、昨年盛岡市に新設した姫神工場で生産を始めた。県内スーパーなどで販売され、需要にこたえるため生産を機械化しており、いよいよ量産機械の導入試験を始めた。当面は最低で一日1万食弱の目標、次の段階には3万食の目標だ。新工場は夏に生冷麺の生産が集中、ラインがあく冬季商品にひっつみを育てたい考えだ。量産化で難しいのが、ふぞろいで厚さもまちまちな生地づくり。手作り感を出すのに試行錯誤を重ねる。

  さいとう製麺では切って、のばすまで機械を使うものの、こしを強くするためにうどんのように踏んだり、生地をちぎったりといった作業は人手に頼らざるをえない。夜も明けぬ時間からの作業。首都圏から注文が増えそうだが、「リスクが伴うしもう限界。これ以上やれば体を壊してしまう」と斉藤社長は困惑する。

  さいとう製麺の「南部ひっつみ」の生地は1ミリから厚いのだと5ミリほどあるだろうか。折りたたんだように重なったり、形もまちまち。両社とも適度に歯ごたえがあった。原料には塩を加えることでこしが強くなる。添付されたスープはしょっぱさに若干違いがあったように感じた。

  戸田久が量産に乗り出すのはゆでた生地を急速冷凍したひっつみ。業務需要にもこたえる狙いだ。ゆでたひっつみはそのままにして時間がたてばのびてしまうが、すぐに冷凍すれば味わいを保て、使うときにそのまま鍋にいれればよい。店やホテル・旅館で生地づくりの作業負担が軽くなり、提供しやすくなる。

  「ひっつみ粉」を扱うのが製粉会社の東日本産業(紫波町)。他社がすいとん粉をメインの商品名に打ち出したのに対し、同社はひっつみを商品名に掲げた。南部小麦を主原料にでんぷんを加えた。歯ごたえがしっかりしてこしが強い南部小麦の特長を生かしながらでんぷんをいれ弾力が出るようにたした。「煮崩れの失敗のないようひっつみ用を売り出した」(同社)が、専用の粉でなくても十分だという。

  さいとう製麺の主力製品はかっけ。まだニッチ(すき間)市場のひっつみだが、戸田久では今後育っていけば「さらに薄いひっつみ、ユニークな形をしたひっつみなどの展開も考えられる」(戸田敬社長)という。

  「うちの製品が売れるのは複雑な気持ち」。斉藤社長が話すように本来は家庭でつくられた手作りの食。それでも、小売店など身近に製品があれば、なじみが薄い人でも親しむきっかけになるかもしれない。

本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします