■ 〈岩手の粉食文化を代表・ひっつみ〉2 大谷洋樹 「すいとんとは違うもの」
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「ひっつみはすいとんと違う」と強調するのはさいとう製麺の斉藤真社長。すいとん(水団)は小麦粉に水を加えこねた生地をすくって汁に落とした料理。
戦後の食糧難の時代、一説には都市部の主婦が作り広がったというが、メリケン粉を使い具も乏しかった。貧しい時代の料理と、よい印象をもたない人もいる。
ひっつみは、よくこねた生地を薄く延ばし汁に入れ、粘りや歯ごたえがある。具はバラエティーに富み、食糧難の時代と違って手をかけた料理になった。「ひっ摘む」の方言からきており、こねた生地を薄くのばしひっつまんで鍋にいれることから呼び名がついた。南部藩の料理で、県北での呼び名。二戸の一部など「とってなげ」と呼ぶ地域もある。古くから米の節約もかね夕食などに季節の具材をいれ主食にしたという。
米が貴重だった土地だからこそ食材をおいしく生まれ変わらせる知恵と風土が生み出した食べ物だ。
しょうゆや酒をベースに出し汁は煮干や鶏ガラ、具は季節によりごぼう、にんじん、しいたけ、鶏肉といったものが定番のようだが、さばでだしをとったり、家庭によって汁の味付けや具材は様々。
伊達藩では「はっと」とも呼ばれ、岩手では川がにのかにばっとなどが郷土料理として残っている。はっとは「法度」が由来との説もある。宮城県北の登米地域では米どころだったが、年貢米だけでなく江戸に送る米を納めたため農民は代用食として小麦を栽培しはっとをつくった。藩は米づくりがおろそかにならないようつくるのを禁止したのが名前の起こりという。岩手県北ではっと(はっとう)といえばかつて晴れの日の食べ物で、うどんのような麺を指す。
一方、ひっつみと似た有名な郷土料理に山梨を中心とした「ほうとう」がある。ほうとうはのばした生地を麺状に切るなどしてみそで煮込んだ料理だ。岩手で小豆ばっとう、かぼちゃはっとうがあるように山梨でも小豆ほうとう、かぼちゃほうとうがあるようだ。南部家のルーツは甲州。直接のつながりがあるのかわからないが、食の共通点が多い。
ほうとうのルーツをたどると中国の唐菓子ともいわれる。うどんもそれから分かれて生まれたとされるようだが、ほうとうは薄くのばし棒状に切った生地をゆでずに汁に入れるのが基本で、あらかじめ麺をゆで水洗いするうどんとは異なる。名古屋の味噌煮込みもうどんといいながらゆでずに汁にいれる点で、ほうとうやすいとんと同類ともいえる。
ひっつみもゆでずに生地を汁に入れるのが昔ながらのつくり方のようだ。火の通り具合で中心部がやや粉っぽくなるきらいもあるが、汁がよくしみこむ。
ゆでて水洗いをすると生地がひきしまる。ゆでてから汁にいれ、提供する店は多い。
粘りを出し、のびやすいよう生地を調理前に寝かせるのもポイント。
ひっつみがうどんなどと違うのは道具を使わず手で生地をこね、のばし、ちぎるまさに手作りの料理だという点だ。
「生地を汁にいれてゆでたてを食べるのが歯ごたえがあっておいしい」、「いやそうではない。一晩おいて生地が汁にとけだしてとろっとしたのがおいしい」などと人それぞれの楽しみ方、こだわりがある。具のだしがしみこんだひっつみの残り汁で「おじや」というのもまた格別、なとどいう人もいる。
「ひっつみの命はよくこねること」というのは東日本産業の営業担当者。こねれば小麦粉のたんぱく質の成分がグルテンを形成し、歯ごたえもこしも強くなる。水を加えると、生地ののびがよくなる。手作りの味わいが濃いひっつみは、岩手のもてなしの心を代表する食事だ。
(大谷洋樹) |
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