めまぐるきひかりのうつろのびたちて
いちじくゆるゝ天狗巣のよもぎ
〔現代語訳〕次々と変わって行く光の空洞が天に向かって伸び立っています。イチジクも揺れており、テングス病に罹(かか)っているヨモギ(蓬)もあります。
〔評釈〕「大正十年四月」〔「歌稿〔B〕」〕の末尾に加えられたものも含めての五十二首中の最終歌の「811c歌」。「冬のスケッチ」三十八葉に「眩ぐるき/ひかりのうつろ、/のびたちて/いちじくゆるゝ/天狗巣のよもぎ。」のほとんど同じ形で収められている。ちなみに、前後に置かれているものは「からすそらにてあらそへるとき/あたかも気圏飽和して/さとかゝれる 氷の霧。」と「ながれ入るスペクトル黄金/ひかりかゞやくよこかほよ/こころもとほくおもふかな。」である。初句「めまぐるき」は、「めまぐるしき」であることが、「冬のスケッチ」の「眩ぐるき」の表記からも分かる。前半五七五と後半の七七の関係、イチジクとヨモギの関連など分かりにくい部分の多い一首である。
(盛岡大学学長) |