■ 〈岩手の粉食文化を代表・ひっつみ〉4 大谷洋樹 「食の匠が伝える食文化」
|
家庭のひっつみが伝わる岩手だが、次第につくる人も減ってきた。地域固有の食べものを地域で伝えようと奔走してきた人たちがいる。
県北の軽米町。かつては牛馬を飼う農家が多く、古くからの雑穀の産地でもある。県が郷土料理の技能者を認定する「食の匠」に、ひっつみで認定を受けた中舘ミヤさんは伝承に熱心だ。
まずは地域の女性を指導。イベントのたびに若い母親たちを集め、技を教える。農協女性部や生活改善グループの女性たちが中心だ。30代後半から40代の若手も参加する。「私はさまざまな場にボランティアででているが、私たちの世代がいなくなったら残るのだろうか」と中舘さんは危機感をもつ。
だしは地域で「じゃっこ」と呼ぶ川魚を乾燥したものを使う。野菜を豊富にいれるなど幅広く食べてもらえるよう工夫を凝らす。凍豆腐をいれてもよい。ひっつみは寒い時期おいしいが、夏の食べ物にも応用でき、冷やして「かっけ」のようににんにくみそなどのたれにつけてもおいしいという。
だが、基本は守る。中舘さんのひっつみはゆであげずに生のまま汁にいれる。汁がよくしみこむ。実家のやり方だという。粉に卵やサラダ油を加えると手に生地がくっつきにくくなり、生地からうまみがでる。南部小麦は「こねるとよさがわかる」。生地はよくこねると紙のようによくのびる。生地はまんじゅうのような形にして冷凍しておけばいつでも利用できるし、お土産にもなるという。
県南の平泉町には「八斗」の食の匠がいる。石川渡さんは地元長島地区に伝わるはっとを自ら掘り起こした。中尊寺近くの店「古里庵」で予約が入れば出張し腕をふるう。
八斗は麺状ではない点はひっつみと同じ。戦後間もない頃、近くの製粉所の日誌に「はっと粉」の八斗という漢字を目にしたのが、石川さんが八斗にかかわるきっかけ。農業資材の配達の仕事に携わっていたことから、養蚕農家などから話をきき、歴史を掘り起こしていった。
明治中頃、水車で粉をひく加工賃にばらつきがでて村人の間でもめた。1俵の小麦をひいて粉が一斗ますで5杯、ふすま(皮)が3杯、加工賃はこの3杯のふすまで支払うという八斗を基準とする取り決めをしたのが発祥。当時このあたりは水車の数がよその村よりも多かった。そんな粉食の伝統が今の八斗に生きている。
具材はこのあたりは根菜が中心。「この地域の風土に根づいたもの」と石川さん。土の上で一生を過ごす麦と土の中で過ごす根菜をいっしょに食べるのが体にいいと地域の人からきいた。石川さんの認定料理はとろろはっと。自生する山芋を使う。根菜類を煮た後は汁から引き上げ、とろろをかける。
ひっつみには地域の食文化や物語がある。家庭での食の体験や地域の風土を映す。ひっつみを学校給食に採用する地域もあり、給食を通じた食育は県内でもひろがっている。
子供に郷土食を体験させるのは次世代につなぐ有力な方法だが、それ以前に地域の作り手となる大人の後継者育成が急がれる。地域の人たちが地域の食とその文化にもっと目を向けて一体となって担い手をバックアップしなければ、固有の食が途絶えてしまう。
(大谷洋樹)
中舘ミヤさんのレシピ
■ 材料
(7人分)小麦粉500グラム、卵1個、食油大さじ1、水5カップ、焼いて干した川魚または鶏肉・人参・ごぼう各1本、その他季節の野菜、ねぎ、しょうゆ
■ 作り方
1.卵を割り、食油と水を加えて泡立て器でほぐす。
2.小麦粉をボールに入れ1の卵液をしずかに加えながら箸でかき混ぜ、全体になじんできたら、手でしっかりとこねる。15分位こねて、5つくらいにわけて丸める。
3.焼いて干した川魚または鶏肉でだしをとり、ささがきにした人参と、ささがいてあく抜きしたごぼう、季節の野菜をいれ、たれを作る。
4.3が煮立ったところに、2のもちを薄くのばしてひっつむ。仕上げにねぎを入れ、味をととのえる。
|
|
|
|
|
|
|