月更けて井出に入りたる剣まひの異
形のすがたこゝろみだるゝ。
〔現代語訳〕月も(夜も)更けての月となり、伊出に入った剣舞の今まで見たことのない様子を見ると、心が乱れるのです。
〔評釈〕保坂嘉内宛書簡〔大正六年九月三日、書簡40〕の四首中の三首目。この書簡は、人首から盛岡市茅町の鎌田初太郎方の嘉内へと出したものである。「井出」は江刺の「伊手」で、江刺群地質調査に出掛けた賢治たちは、上伊出剣舞・原体剣舞等を見て、強烈な印象を受けたと言われている。「異形のすがた」の「異形」は、既に719回で取り上げた「(「歌稿〔B〕)593歌」」(★本書簡冒頭歌の推敲[すいこう]作品)にも「うす月に/かがやきいでし躍り子の/異形を見れば こころ泣かゆも」をはじめとして、それに続く作品でも繰り返されて用いられる「キー・ワード」で、賢治の受けた衝撃を集約している。ただし、作品結実度は「異形」「こゝろみだるる」と話者の感情が前面に出すぎていてもう一歩。
(盛岡大学学長) |