はるきたりみそらにくもらひかると
もなんぢはひとりかなしまず行け。
〔現代語訳〕春が来て、空には雲が光っても、あなたは一人(今の境遇を)悲しまずに進んでください。
〔評釈〕保坂嘉内宛書簡〔大正七年四月二十日、書簡56〕に書かれた短歌二首のうちの最初のもの。この三月、賢治は盛岡高等農林を得業して研究生となり、嘉内は一方的な除籍処分を受けている。退学後の嘉内は、明治大学に籍を置いたが、この時期盛岡に来たらしい。が、四月から「稗貫郡土性調査」を始めていた賢治は、嘉内に会えなかったらしい。「書簡56」も「三度の御便り拝見致しました。丁度山を歩いて居て御目にかゝれなかつた事を残念に\/に思ひます。」と始まっている。「唯一ノ目的ノ為ニ一切ノ衆生ノ為ニ進ンデ行クナラバ悲ミハ悲ミデハアリマセン。」〔書簡53成瀬金太郎宛〕が当時の賢治の心境であっても、退学の悲しみの中にある嘉内を励まさずにはいられないのである。
(盛岡大学学長)
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