■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉73 志賀来山(しがらいさん、563メートル)
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西和賀町沢内は、どこよりも段違いに多い雪で知られる豪雪の地である。沢内の東部に位置する志賀来山を冬登りたいと思っても、積もったばかりのモサ雪を一人でラッセルするには無理がある。よほど締まった硬雪でもないかぎり、ズボズボ沈んで抜き差しならぬハメになる。
それゆえ冬の里山はワカンを履いた数人で、先頭を交代しながら前進しなければならない。標高差わずか260メートルをつめる志賀来山であろうと、あと2人は欲しいところであった。
「そうだ、弥市さんと重夫さんに声をかけてみよう」
雪のちらつく朝、かくして3人は県道1号線の鶯宿で落ちあった。
新山伏トンネルを抜けたら南下して、沢内新町で沢内バーデン方面へ左折、サクラ街道の志賀来スキー場に行く。ゲレンデは志賀来山の西斜面そのものなので、地図に登山道は記入されていないが、リフト上部の林が志賀来山のピークだ。よく見るとジグザグの夏道がそれとなく透けて見えた。
リフト上部までは、サクラ街道を少しもどってから右折し、ツツジの道〜ブナ散策路を進む方法や、探鳥の森から木の実の道―見晴の丘―ブナの散策路を歩いていくこともできる。どちらかと言えばゲレンデの端を登るほうが近い。
だが、志賀来山の本領はリフト上部からだ。若くて細い雑木は雪の重みでたわみ、道におおいかぶさって行く手をはばむ。ハードルを越したかと思えば、リンボーダンスのようでもあり、すぐに足腰が悲鳴をあげる。かなりの斜度だが、ここは木々の流れに逆らわず、頂上を見定めて直登せざるをえなかった。
弥市さんも重夫さんも、手ぬぐいを絞っている。私とて、尾根に飛びだしたときには1時間のラッセルで背中がぐちょぐちょだった。
緩やかな尾根を150メートル進んで見晴らしのいい山頂に到着。沢内の里や白虎のような真昼山塊は、乳白色の光の中にボーっと浮かんで清々しい。1メートル程度積もった雪の下に国土地理院の四等三角点・図根三角点・山の測点が埋もれている。
体が冷えないうちに、私たちは付けたばかりの足跡を忠実にたどり下った。リフト上部で自然散策路にそれ、新雪をけってリスのように歩き回ったが、さらに金山坑跡や見晴の丘を経由しても面白そうである。
志賀来山の南側に気になる三角山がある。「あ〜、あれは雌(め)志賀来山。あんたが登ったのが雄(お)志賀来山だよ」見知らぬおばあさんが湯船から身をのりだした。沢内バーデンは、ちょくちょくいのちの洗濯でかまびすしい…のかな?
(版画家、盛岡市在住)
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