2008年 1月 15日 (火) 

       

■  〈賢治の歌〉990 望月善次 寄る辺なく夕暮れわたる

 よるべなく夕暮亙る桑の樹の
  足並の辺(べ)に咲けるみざくら。
 
  〔現代語訳〕頼りなげに夕暮が行き渡る桑の樹が並んでいる辺りに咲いている桜よ。

  〔評釈〕保坂嘉内宛書簡〔大正八年五月二日、書簡145〕に書かれた短歌四首のうちの冒頭歌。この書簡も短歌のみが書きつけられている書簡である。「よるべ(よるへ)寄辺」は、「たのみとする所」が原義。従って、「よるべなく」は、「頼りなく」ほどの意味。「足並」は、元々は行列などの揃(そろ)っている程度を示す語。「夕暮れVS亙る」や「桑の樹VS足並」は、比喩(ひゆ)の衝撃性からすれば、特に取り上げるレベルには達していないが、分類的に言えば、賢治文学の基底をなす結合比喩。「ぼくは桜の花はあまり好きではない。」〔「或る農学生の日誌」〕など、桜には必ずしも好意的ではないところもあるとされる賢治だが、抽出歌では「みざくら」としているから、もちろんマイナス一方の「桜」ではない。

(盛岡大学学長)

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