そら高く風鳴り行くを天狗巣の
さくらの花はむらがりて咲く。
〔現代語訳〕空は高く(晴れ渡り)風も鳴りながら行く(という素晴らしい天候な)のに、天狗巣病の桜の花が群がって咲いています。
〔評釈〕保坂嘉内宛書簡〔大正八年五月二日、書簡145〕に書かれた短歌四首のうちの三首目。「天狗巣」は「天狗巣病」のことで、「植物病の一種。樹木などの枝や葉が異常に密生し、枝の基部が多少肥大する症状を示す。高木に発生すると鳥の巣状に見える。」〔『マイペディア』〕というのが一般的説明で、『新宮澤賢治語彙辞典』となると「特に桜に多い。」との注記を添えている。「そら高く風鳴り行く」という話者にとってプラスに評価できる天(頭上)の状態に対して、(目を地上に転ずると)天狗巣病にかかった桜というマイナス的現象が存在することの対比によって作品の骨格ができている一首。また、この場合は「天上から地上へ」であるが、「視線の転換」も賢治の基本的方法の一つ。
(盛岡大学学長) |