2008年 2月 11日 (月) 

       

■  〈賢治の歌〉1017 望月善次 なにげなく、風にたわめる

 なにげなく、風にたわめる 黒ひのき
  まことはまひるの 波旬(はじゅん)
  のいかり
 
  〔現代語訳〕何気なく、風にしなっている黒い檜(ひのき)は、本当は真昼の波旬(悪魔)の怒りを示しているのです。

  〔評釈〕〔『あざりあ』第一号(大正六年二月中)「みふゆのひのき」十二首中の二首目。「連載528〔06、9、24(土)〕「431歌」の「あらし來ん/そらの青じろ/さりげなく乱れたわめる/一もとのひのき。」の際に作品のみは挙げている。「波旬」は梵語「パピーヤス(papiyas)」の音写の誤写。「悪者、殺者」の意〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕。「書簡63」〔保坂嘉内宛、大正五年七月十九日〕の本文終わり近くに「世尊が道場に座したとき魔王の波旬が来てこれを妨害し語巧に世尊の魔と闘ふことの悪いことを説きました。」がある。直前歌が「アルゴンの、かゞやくそらに」から「(第一日昼)なにげなく/窓を見れれば」(「430歌」)へと変更されたことが、「歌稿」脱落の理由か。

(盛岡大学学長)

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