其のかみもかく雨とざす月の夜をあ
はれと見つゝ過ぎて来しらん。
〔現代語訳〕昔においても、このように雨が閉じ込めている月の夜を、趣きのあるものとして過ぎてきたのでしょうか。
〔評釈〕「中秋十五夜」〔『アザリア』第三号〕三首の三首目。一連三首の中では、この作品だけが「歌稿」に残っていない。「中秋十五夜」は、『アザリア』第三号では、「原体剣舞連」に続く作品となっているが、「歌稿」においては、その間に、同年〔一九一七(大正六)年〕の九月一六日に死去した祖父喜助の様子などを描いた作品を置いている。「そのかみ(其の上)」は、原義的には「時の推移に関係なく、今話題にしていることが起こったその時点を指す」ことになるのだが〔『岩波古語辞典』〕、端的に言って「昔」。満月に対して、完全な満月のみをよしとしない考え方は、『徒然草』の「花は盛りに、月はくまなきをのみ見るものかは。」〔一三七段〕をはじめとして日本人の美的感覚の一つ。
(盛岡大学学長)
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