2008年 3月 5日 (水) 

       

■  〈賢治の歌〉1039 望月善次 雪降れば北上川はやすらかに

 雪ふればきたかみ河はやすらかに昆
  布の波をたゝへたるかな
 
  〔現代語訳〕雪が降ったので、北上川は、やすらかに昆布の波をいっぱいにしているのですねぇ。

  〔評釈〕「好摩の土」〔『アザリア』第四号〕十首の十首目で、「歌稿」には採られていないもの。「雪ふれば」は、表現の上では「やすらかに〜たゝへたるかな」の「理由」となっているが、これは通常の場合の「理由」であるというより、文芸上の修辞で「契機」と考えた方が適切であることは、本シリーズで繰り返し述べていることの一つ。「たゝふ(湛ふ)」の「湛」は、「水+甚(深い)」で、「水が一杯あること」を表す漢字で、「たゝふ」は、水以外のものに対しても「一杯に満ちている」意で用いる。賢治の昆布それ自身や「うるはしき/海のびらうど 褐昆布/寂光ヶ浜に 敷かれ光りぬ。」(「歌稿〔B〕」560歌)や川の中に広がるもの〔中津川河藻はな咲きさすらひの/しろきこゝろを夏は来にけり(「歌稿〔B〕」506歌)〕への関心は、この時期の特徴の一つか。

(盛岡大学学長)

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